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研究の概要 
 
1 問題群の構図

 本研究が取り組もうとする問題の構図は右図のようにモデル化できる。グローバル資本主義の展開は、市場化、競争圧力の昂進として各国に波及し、一方で格差拡大、個人のアトム化、自己責任への強制といった社会状況が出現する。その結果、社会的連帯の喪失、社会的排除などの現象が起こり、結果として政治的脱力が横溢することとなる。他方、グローバルな資本の飽くなき運動は環境破壊、貧困の深刻化などの地球的リスクを生み、それらの問題はテロリズムにもつながる。また、競争圧力は労働力の使い捨て、安全対策の軽視など企業のモラルハザードをもたらし、そのことは生活のリスクを一層拡大する。しかし、政治的に脱力し、アトム化した個人はリスクへの対応力を失い、具体的な政策を構想するのではなく、いたずらに秩序願望だけが高まることとなる。ここにおいて、象徴と暴力による統合が成立することとなる。弱者が自らを苦況に追いやる政策やリーダーを支持するという逆説が現れるのである。自由と平等がある程度両立した20世紀型民主政治は危機に瀕する(クラウチの言うポスト・デモクラシー)。本研究は、市民社会民主主義という概念を基軸として、ポスト・デモクラシー状況からの巻き返しのための戦略を考察するものである。


2 本プロジェクトが追求する課題

 本研究は、@問題状況の正確な把握と情報共有、A課題の析出と明確化、B問題解決のためのアジェンダの構築の3つの目的に取り組む。

@ 問題状況の把握

@ 新自由主義的政策の検証

 議論の出発点として、市場化や競争圧力を促進する新自由主義的な経済政策が、どのような帰結をもたらしたのか、社会実態と市民意識の両面において検証する必要がある。最近の格差論争にも現れているように、重要な概念の定義をあいまいにして議論をすれば、格差の存在自体の有無、格差に対する規範的な評価などについてかみ合った議論が不可能となる。あるいは、格差を批判する言説として事態の悲惨さをエピソード的に強調しても、そこから有意義な政策論議にはつながらない。そこで、新自由主義的な経済政策がもたらした社会経済の変容を客観的に把握し、議論の前提を提供する。また、上述の個人のアトム化についても、世論調査によって過去数年間の市民の政治社会意識の変化を把握することが必要となる。この問い自体は普遍的であるが、まず主として日本を対象に考察する。

A 民主主義の機能と限界に関する理論的総括

 先に紹介したギャンブルは経済の自己運動に対する政治の終焉の危機を指摘し、クラウチは民主政治が衰退局面(post democracy)に入ったことに警鐘を鳴らしている。こうした民主主義論を検討し、記述概念としてのこれらの有効性、それを踏まえた民主政治の再生のための条件について考察する。

B 社会民主主義モデルの変容に関する比較検討

 イギリスの第3の道、ドイツにおけるアジェンダ2010など、西欧の中道左派政権が目指した社会民主主義のイノベーションの試みについて総括し、その意義と限界について明らかにする。

A課題の析出と検討

 @で行った現状分析をふまえ、J-1で提示した3つの目的を具体化するための課題を析出する。

@ 公共政策のイノベーション

 現状分析においては、財政や社会保障などの政策が持続不可能という懐疑が社会に広まるにつれて、政治に対する期待水準が低下し、小さな政府への支持が拡大するという論理連関が想定される。これに対して、持続可能な再分配政策と公共政策の信頼回復の方途を考察する。

A 市民社会民主主義の理念の彫琢

 政治の有効性への信頼回復、リスクを共有する者同士としての連帯の回復を柱に、新たな政治理念としての市民社会民主主義を具体的に深める。

B 社会的ガバナンスの構想

 従来の再分配政策が、既得権集団によるコーポラティズムや圧力政治に堕したことが、新自由主義による既成政治批判の論拠を提供した。こうした問題を克服するために、透明性と参加を確保した政策形成システム、さらに市民参加による低コストの政策実施システムのあり方を考察する。

B 新たなアジェンダの構築

@、Aの作業でもたらされた知見、構想により新たなアジェンダを形成し、政策提言と社会への発信を行う。


3 本研究の意義と独創性

@ 新時代の政治理念を日本から発信する

 競争主義の圧力に抗する民主政治の再活性化については、欧米の政治学において、討議デモクラシー、アソシエーティブ・デモクラシーなど新しい理念の提唱が進んでいるが、これに対して日本の政治学から新たな理念を吹き込むことが期待される。

A 政治学と経済学の協力による具体的な現状分析とアジェンダ提言

 格差問題に対する関心が高まる中、断片的な現状批判ではなく、政治学と経済学の連携により、体系的な現状認識と、これを乗り越える理念、政策を提示する。

B 市民社会活性化に関する国際的ネットワークの構築

 公平、平等を志向する政治学や市民的活動に対して、日本からの情報発信と研究協力を行う知的拠点を形成する。


4 研究プロジェクトの展開計画

 このプロジェクトの展開は、次のフローチャートのような形で展開していく予定である。