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History of European Integration

史料館案内Archives

欧州連合歴史文書館の紹介(川嶋周一・明治大学)

欧州連合歴史文書館  Historical Archives of European Union (HAEU)(外部サイトへ)
住所:Villa Salviati, Via Bolognese 156 - 50139 Firenze – Italia
開室時間:月~金 8:30-17:00(内昼休み=12:45~14:00までは史料の注文受付不可)
週末以外に祝日等の閉館日あり。


(写真:HAEU外観)
HAEUは、16世紀に建築された歴史的な建造物でもあるかつての貴族の邸宅であるヴィッラ・サルヴィアーティに入っている。ヴィッラ・サルヴィアーティは、現在EUIの行政機構のオフィスとして使用されており、その一角をHAEUが使用している。


アクセス

市内からはバス25番、Pratolino行きに乗り(25番にも他の行き先のバスがあるので注意すること)、20分ほどでバス停Il Cionfo 01(イル・チョンフォ・ゼロ・ウーノ)で下車。バス停を降りると、バスの進行方向を少し歩く。100メートルほど行くと家が何軒があって、そのすぐ先にアーカイブの建物の入り口がある。開室時間は門が開いているので、そのまま入る。歩道があるので、少し下っていくと、左手前の建物がアーカイブの受付となっているので、そこに入る。

25番のバスは市内のサンマルコ広場(Piazza San Marco)から出ている(バス停名はLa Pira)。駅前のバスターミナルからは出ていないので注意。


(写真:正面入り口からアーカイブ敷地内を眺める。)


作業言語

アーカイブの中の人たちは英語が問題なく(ネイティブではない人が大半だが)出来る。フィレンツェに住んで働いている関係上、イタリア語もほとんど問題ない(イタリア人は多い)。フランス語が出来る人もかなり多い。


初回訪問時の登録

扉を開けると、ホールになっており、右側にロッカーがあるので、そこに荷物を預ける。閲覧室に持ち込めるのは、ノート(メモ用)、鉛筆、ノートパソコン(とその周辺機器)、デジカメである。閲覧室内は飲食禁止である。

荷物を片付けて持ち込み品を準備したら、受付で初回登録を行う。身分証明書は必須であり、大学院生の場合は、指導教官の推薦状(欧語)を用意しておくこと。登録用紙には、リサーチテーマ、対象年代(どの時代の史料を見たいのか)、リサーチの種類(博士論文、論文、記事、その他等)、大学院生の場合は指導教官名などを書く欄がある。昔はこの受付にアーキビストが居て、相談等も乗ってくれた。現在は基本的には文書の出し入れを担当するポーターがいるのみで、アーキビストに相談したいと思ったら、積極的に申し出るべきであろう。

また、初回登録が終わって閲覧室に入る時、訪問者ブックにサインを記す。次の日に訪問する場合は、この訪問者ブックに署名すればよい。前の日に史料を残している場合は、ポーターに申し出ればその場で渡してくれる。

最後に、初回登録が終わった後、高い確率でWifiにつなぐか、と聞かれる。聞かれない場合は、Wifiにつなぎたいとはっきり言えば、IDとPassを渡してくれる。接続料はもちろんかからない。これは、文書の注文方法ともかかわることで、HAEUではWifiへの接続は必須である。


HAEUには何が所蔵されているのか

HAEUの所蔵文書は大きく分けて三つの種類がある。

(1)第一にはECと呼ばれる、EU関係機関(前身を含む)の文書。これは、委員会文書(BAC、CEAB)、理事会文書(CM1、CM2、CM3)といったブリュッセルにある文書をマイクロ化して体系的に移送(Transfer)されるものにくわえ、AC(ECSCの総会)、AD(欧州政治共同体交渉時のアドホック議会)と言ったもの、さらに社会経済評議会等、EUの周辺機関の文書も所蔵しる。近年では、まだ本格的な公開には至っていないものの、欧州司法裁判所(ECJ)の文書も移送され始めており、公開が期待されている。

大雑把にいって、このEC文書では、ブリュッセルに偏在している各文書を一か所に収集することでヨーロッパ統合史研究の利便を図る、という趣旨のもとで文書が収集されるようです。

(2)第二には、DEPと呼ばれる、ヨーロッパ統合に関係する個人の私蔵文書、機関の文書である。前者の個人文書は、たとえばヴェントテーネ宣言を執筆した一人スピネッリや、長年EECの事務局長を務めたノエルなどがある。後者の例としては、有名であるが、OEEC(OECD)文書を所蔵している。

個人的印象として、近年増加の一途をたどっているのがこのDEPのプライベート文書である。統合に深くかかわった政治家・官僚が多く史料をHAEUに寄贈しており、一部の文書は政府文書の30年ルールにかかわらず公開されているので、DEP文書をうまく活用すると、政府文書が公開されていない時期を研究することができる可能性があります。

(3)第三には、COLと呼ばれる、個人が収録した幅広い史料の公開およびEU加盟主要国(仏独伊)+アメリカ・ロシアの公文書館(国立文書館や外務省文書館)に収録されているヨーロッパ統合関係文書を大量に複製して所蔵している。特に注目すべきは後者で、しかも年々所蔵史料を増やしている。代表的なのはフランスの史料で、AN(フォンテーヌブロー含む)のSGCICEE(ヨーロッパ経済問題のための省間会議)史料、仏外務省の経済局対外関係課(仏外務省で欧州統合問題を実質的に仕切っている部局)が年々公開している。HAEUに入っているものは、オリジナルなアーカイブでもマイクロで公開されており、そのマイクロには、HAEUのお金でマイクロ化されました、とご丁寧にも注意喚起がなされている。

また、COLのオンライン・カタログには各国のアーカイブにおけるヨーロッパ統合に関連する文書の情報が書かれているが、これはHAEUに複製が保管されているのではなく、あくまでアーカイブのカタログ上の情報をHAEUで簡便に見ることができる、というものである。


事前問い合わせ

取り立てて予約等が必須である訳ではないが、自分のテーマについて予め問い合わせておくことは、アーカイブ・ワークの時間を効率化するためには必要なことなので、可能な限り事前に問い合わせておいた方がよい。

また、HAEUに所蔵されている文書は殆どが公開されているが、ごく一部の文書には公開が見合わされているものもある。その場合は、文書の所有者・寄贈者からの許可を得なければ閲覧できない。このような文書開示請求が必要な文書が、自分の見たい文書に含まれるかどうかを確認するためにも、事前問い合わせは行うべきであろう。


文書の注文方法

カタログは、完全にオンライン化されている。関係する政治家や機関のカタログから探っていってもいいし、HAEUが用意しているデータベース検索(http://archives.eui.eu/en/search/)から調べてもよい。

なお、この時のデータベース検索は、自分のPCを用いて行える。HAEUにも備え付けのPCがあってそれも使えるが、閲覧室と少し離れているので不便である。HAEU備え付けのPCは、HAEUが契約しているデータベースを利用するときには使用する。

文書を注文する場合は、閲覧室の中に大量の紙が置いてあり、その紙に史料番号・注文日付・氏名を書いて受付に渡す。

注文がアナログであるため、自分が何を注文したかを自分自身が正確に把握しておく必要があるのは言うまでもない。


閲覧待ち時間・数量等

注文から持ってくるまで20分程度。一回に注文できる量は、特に定まっておらず、常識の範囲である。一回に手元に置けるのは3個まで(というか、三個以上注文した場合、ポーターが席まで3個の史料を持ってきてくれる)。ただし、マイクロだと、いくつかの史料が連続しておさめられている場合が多い。


史料の返却・保持

史料を読み終わったら、受付に返却しに行く。三つまとめて返却するよりも、ひとつずつ返却し、その都度、史料を新しく注文すると時間を効率的に使える。新しく注文した資料は、ポーターが席までもってきてくれる。


複写

写真禁止とそれぞれの史料の表紙に明示されていない限り、デジカメで撮ってもよい。

複写できる枚数は細かく規定されている。COLおよびDEPの場合、それぞれのFondsで年間500枚まで。各国の外務省資料の場合はさらに枚数が低く設定されていることもある。共同体史料(EC)の場合は、複写枚数に制限はない。


個人的感想・食事・その他

閲覧室は、統合史関連の専門書・回顧録等を配架した本棚に囲まれている。その意味で、HAEUの閲覧室は統合史専門のミニ図書室ですらある。少し疲れたら、書棚を眺めるだけでいろんな発見があり、これがまた至福の瞬間でもある。

リフレッシュ方法として、受付のホールにコーヒー(ラヴァッツァ社)およびお菓子・ミネラルウオーター・ジュースの自販機が設置されている。なお、トイレは地下にあるが、分かりにくいので初回はポーターに聞く方がよい。

アーカイブが入っているVillla SalviatiにはHAEUだけでなくEUIの他の部局もオフィスを構えている(大学の行政的オフィスのみ)こともあって、小規模なレストラン(学食)もある。


(写真:HAEUの庭園、遠くにフィレンツェの市街の遠景を望む。)


基盤研究(A)「リージョナル・コモンズの研究―地域秩序形成の東アジア=ヨーロッパ比較―」
(研究代表者:遠藤乾)