文献等の表示方法について

 論文の執筆に際しては、先行業績や関連文献の引用は必須のことでしょう。そこでは文献の引用法(引用のあり方)が問題となりますが、そのなかでも文献の表示方法は、また一個の問題であり得ます。
 文献の表示方法は、読者に対して、引用されている文献の出典についての必要な情報を遺漏なく伝えるものでなければなりません。また、その表示方法は、論文全体を通じて一貫したものであるべきでしょう。
 しかし、唯一・絶対の文献表示方法が確立しているわけではありません。その意味では、執筆者において、既存の文献が採用している方法を調査し、表示すべき情報、反復引用の方法、さらに欧文の場合には、イタリック体やキャピタル体などの字体の使いわけ、頁表記の方法、略語の用法などについて、最大公約数的なものを発見することが必要となるでしょう。
 なお、法学論文における註と引用の意義については、
[0a] 星野英一=田中英夫「〈対談〉法律文献の引用方法をめぐって」
    書斎の窓383号(1989年)2頁以下
[0b] 弥永真生「法律学のマニュアル 11」
    法学教室221号(1999年)84頁以下
を御覧ください。

論文における文献の表示方法について、一般的には、
[01]斉藤孝『学術論文の技法〔第2版〕』
    (日本エディタースクール出版部・1998年)
[02]中村健一『論文執筆ルールブック』
    (日本エディタースクール出版部・1988年)
が参考となるでしょう。[01]は、文学部図書室に所蔵されています。なお、旧版が図書館本館に所蔵されています。[02]は、図書館本館に所蔵されています。
[03]歴史学研究編集部「論文の注について(1)-(11)」歴史学研究月報200-207, 209-211号(1976-77年)
も、この問題を考えるうえで参考となるかもしれません。
また、英語文献については、著名なStyle Guideをインターネットで入手できます。
[04]http://www.lib.usm.edu/~facbib/Guides/mla.html
    (MLA Style Guide)
[05]http://www.lib.usm.edu/~facbib/Guides/turabian.html
    (Turabian Style Guide)
この[04]は、Modern Language Association of America の論文執筆要項であるMLA Handbook for Writers of Research Papersによるものです。[04]の翻訳として、
[06]ジョゼフ・ジバルディ(原田敬一訳編)『MLA英語論文の手引〔第4版〕』
    (北星堂書店・1998年)
があり、図書館北分館と文学部図書室に所蔵されています。なお、旧版が図書館本館にあります。[05]は、A Manual for Writers of Term Papers, Theses, and Dissertations(通称Turabian)に基づくものです。
ただし、法律文献については、特有の表示方法が採用されていることがある点に注意が必要です。

邦語の法律文献の表示について、確立された表示方法が存在するわけではありません。ただし、近年、一定の共通基準を作ろうという動きがあり、その成果として、
[07]法律編集者懇話会編「法律文献等の出典の表示方法」
が示されており、参考になるでしょう。[07]は、
[08]日本学会事務センター『法律関係8学会共通 会員名簿』
    (日本学会事務センター・年刊)
に付録として掲載されています。[08]は、関係学会員が所有しているほか、法令判例室にもあります。また、第3次改訂版(1997年)のオンライン版もあります。
なお、記号類の用法について、
[09]文化庁編『言葉に関する問答集〔総集編〕』
    (大蔵省印刷局・1995年)
が参考になるでしょう(本書は、日本語の用字、用語、表記などの問題についても参考になります)。

外国語の文献の表示方法についても、前述のように、それぞれの国の文献を参考として理解されることとなるでしょう。
ただ、英米法(とりわけアメリカ法)の領域においては、アメリカ合衆国のロー・スクールが中心となって厳格な引用法を制定・運用しており、これに従うというのも一つの(かつ安全な)考え方でしょう。
そうした引用法の中でもっとも著名なものが、 "Uniform System of Citation" です。その表紙の色から、「ブルー・ブック」の愛称で親しまれてきましたが、第15版から愛称の方がメイン・タイトルとなりました。
[10]The Bluebook: A Uniform System of Citation
    (Harvard Law Review Association, 15th ed 1991)
[11]The Bluebook: A Uniform System of Citation
    (Harvard Law Review Association, 16th ed 1996)
配架は、[10]が法令判例室東側、[11]が図書館本館です。
現在は、"Uniform System of Citation"の内容をインターネットで入手することが可能です。
[12]http://www.law.cornell.edu/citation/citation.table.html
    (Introduction to Basic Legal Citation:Peter W. Martin (Cornell Law School))
"Uniform System of Citation"の第13版の翻訳として、
[13]藤本直子=真木秀子訳・山本信男監修『法律文献の引用法 −アメリカ法を中心に−』
   (三浦書店・1984年)
があります。
なお、ブルー・ブックにおいては、たびたびルールの変更が行われます。旧版を使用する場合には、それらの変更点に注意が必要です(なお、「編集を終って」[1993-1]アメリカ法161頁参照)。
また、
[14]田中英夫ほか『外国法の調べ方 −法令集・判例集を中心に−』
    (東京大学出版会・1974年)
の中の「英米法」の部分や、
[15]「英米法の調べ方」
     田中英夫編『BASIC英米法辞典』
     (東京大学出版会・1993年)
にも、英米法文献・判例・法令の引用法についての解説があります。
日米法学会は、ブルー・ブックを基に、学会誌である「アメリカ法」における引用法を提言しています。
[16]高橋一修「A Uniform System of Citation (いわゆるブルー・ブック)第13版の発行について」
    アメリカ法1982年1号134頁以下
ブルー・ブックに代わりうる引用法も提示されています(我が国では未だ少数派であると思われますが)。
[17]Richard A. Posner, Goodbye to the Bluebook,
    University of Chicago Law Review, vol.53 (1986) p.1343〜
が、それです。同誌には同時に、"The University of Chicago Manual of Legal Citation (Working Draft)" が掲載されています。なお、これに関して、
[18]University of Chicago Press, The Chicago Manual of Style: for Authors, Editors, and Copywriters (University of Chicago Press, 13th ed 1982)
[19]University of Chicago Press, The Chicago Manual of Style (University of Chicago Press, 14th ed 1993)
があり、[18]は図書館本館に、[19]は文学部図書室に、それぞれ所蔵されています。

他の外国法においては、これほど厳格な引用法の体系的な提示はありませんから、信頼のおける文献が採用している方法を研究して、そこから一定のルールを抽出する作業が必要でしょう。とりあえずの手がかりとして、前掲[14]のほか、やや古いですが、フランス法については次のようなものがあります。
[20]高橋康之「フランス法律語の略し方と法令・判例・文献等の引用方法」
    別冊ジュリスト法学教室3号(1962年)152頁以下
[21]山口俊夫「フランスの法律文献・資料の引用方法」
    法学教室(第2期)7号(1975年)258頁以下
また、ドイツ法についても、
[22]田村康三「ドイツ法律語の略し方と法令・判例・文献等の引用方法」
    別冊ジュリスト法学教室2号(1961年)154頁以下
[23]山田晟「ドイツの法令・判決の見方と法律文献の引用方法」
    法学教室(第2期)6号(1975年)270頁以下
がありますが、どちらも、文献の表示方法についての記述はあまり詳細ではありません。ドイツ語文献に関しては、(1)執筆者名をイタリック体にするのが通例であること、(2)著書の出版社の表示は略しても出版地の表示は略さないのが通常であること、(3)加除式出版物については何年版からの引用であるかを表示し、また引用箇所は頁数ではなく欄外に付された項目番号(Rdnr. / Rn. / Rz. などと略記される)で表示すること、(4)加除式出版物でなくとも版を重ねた教科書などについては頁数ではなく欄外項目番号で引用される例が少なくないこと、などに留意する必要があるでしょう。なお、
[24]Gerhard Friedl / Herbert Loebenstein (Hg.), Abkuerzungs- und Zitierregeln der oesterreichischen Rechtssprache und europarechtlicher Rechtsquellen (AZR): samt Abkuerzungsverzeichnis, Hinweisen fuer die sprachliche Gestaltung juristischer Texte sowie den wichtigsten Korrekturvorschriften, 4.Aufl. (Wien, Manzsche Verlags- und Universitaetsbuchhandlung, 1996)
が参考になるかもしれません。[24]は、図書館本館に所蔵されています。なお、旧版が法令判例室東側に配架されています。 また、ドイツ語文献において多用される略語については、
[25]Hildebert Kirchner, Abkuerzungsverzeichnis der Rechtssprache, 4.Aufl.
    (Berlin, Walter de Gruyter, 1993)
があります。[25]は、法令判例室東側に配架されています。

外国語の文献を邦語論文において引用する場合、複数国ないしは複数言語の文献が混在するときにいかなる体裁で表示するかは、困難な問題です。

日本の判例・文献を英語論文において引用する場合、
[26]Form of Citation of Japanese Legal Materials,
    Washington Law Review, vol.42 (1967) p.589〜
が参考になるかもしれません。


 なお、この資料は、あくまでも執筆者の皆さんの注意を喚起し、あるいは参考資料を提供するという目的に基づくものです。北大法学論集への投稿に際して必ず従われなければならない規則を提示する趣旨ではありません。
 また、この資料における文献表示は、解説の便宜を優先したものであり、学術論文における表示方法としては必ずしも適切なものではありません。