Princo Co. v. ITC, 616 F.3d 1318 (Fed. Cir. 2010)

 【事実の概要】
(1)権利関係
 PhilipsとSonyがCD-R/RWに関する技術標準(Orange Book)を策定。
 Philips+Sony+Taiyo Yuden/Ricohのパテントプールを結成してOrange Book compliantなCDを作るための技術をパッケージライセンス。
 これらのプールには、同じ問題を解決する技術として、PhilipsのRaaymakers特許(アナログ方式)と、SonyのLagadec特許(デジタル方式)が含まれたが、標準の仕様としてはアナログ方式のRaaymakers特許を採用(どちらかに統一しないと、互換性のないCDが生まれてしまう)。
 Philipsはいずれの特許プールについても、管理委託を受ける。
 Philipsはこのほかに、自分が保有する特許だけのプール等でもライセンスするオプションを設けた。

(2)侵害訴訟とITCでの手続
 PhilipsはPrinco他とパッケージライセンス契約を締結したが、ライセンシーがすぐにロイヤリティー支払いをやめたため、侵害訴訟提起+ITCに申立。
 侵害訴訟では侵害が認められ、パテント・ミスユースの抗弁も退けられたが、ITC決定が確定するまで手続を停止。
 ITCは2004年の決定では侵害はあるものの抱き合わせによるミスユースにあたるとして権利行使を認めなかった。
 しかし連邦巡回区控訴裁は抱き合わせによるミスユースを否定し、残りの争点を検討するよう命じて差し戻した。U.S. Philips Corp. v. International Trade Com'n, 424 F.3d 1179 (Fed. Cir. 2005)
 差戻し後のITCはミスユースも否定して、general exclusion orderとcease and desist orderを下した(2007年決定)。
 ITC決定の上訴審でPrincoは、(i)Raaymakers特許とLagadec特許の抱き合わせ、(ii)Lagadec特許をライセンスしないというSonyとPhilipsの合意ゆえに、ミスユースに当たると主張。
 連邦巡回区控訴裁は、(i)パッケージライセンスが必須特許やブロッキングパテント等の判定に関わる不確実性をなくす利点、クレーム解釈に関する法がまだ浮動的だったこと、から抱き合わせによるミスユースではない、(ii)Lagadecの代替的な技術としての将来性に関する証明が不十分であり、SonyとPhilipsの合意でLagadecのライセンスについてどこまで制限されたのか不明確であるため、ITCに差し戻す(Dyke判事)。Princo Corp. v. International Trade Com'n, 563 F.3d 1301 (Fed. Cir. 2009)

【多数意見(Bryson判事)】
 原決定維持。差戻しなんぞいらん(2009年判決と多数が逆転)。
(1)ミスユース法理は特許権者が特許法によって与えられた権利範囲を超えて便益を得ることであってしかも反競争効果をもたらす場合を防止する。
(2)ミスユースは侵害訴訟の対象となっている特許(Raaymakers)に対する抗弁なのに、本件ではLagadecについての主張であり、これはミスユースではない。Lagadec特許を使わせないという合意は反トラスト法違反にはなりえても、ミスユースにはならない。
(3)Lagadec特許がプールと競合しえたことの証明がない以上は、反競争効果の証明がない。Lagadec技術がstorage技術市場において競争的勢力へと成長しただろうことの合理的見込みの証明が必要だった。

【反対意見(Dyke判事)】
(1)競争回避合意とライセンス契約は同じ方針の行為に向けられたものであって一体として評価すべきであり、ミスユースにあたる。
(2)§271(d)(4)及び立法者意図からして、共同のライセンス拒絶がミスユースにあたるのは明らか。
(3)多数意見の反競争効果分析はおかしい。

【独禁法21条との関係】
 ライセンス前の合意(Lagadecを使わせない)と、パッケージライセンスとを区別する。おそらく日本でも前者を権利の行使とは言わないはず。
 外形上みられる行為+認められる行為、の2段階で考えるならば、潜在的ライセンシーの立場から見て、どの範囲の権利が使えなくなるかを考える。日本でも外形上見られる行為に当たるだろう。
 単独か共同かという区別は決定的ではないことの例。