1996年度試験講評


[問題1]

 Xは、平成5年8月、消防車用の潤滑油調節器に関する発明をなし、平成5年9月9日に特許庁に特許出願をなした。平成5年7月、たまたまYもXが後に特許出願をなした発明と同一の発明をなし、平成5年10月に第1号器を試作、完成、翌平成6年1月から市場への販売を開始した。その後、Xの前記特許出願に対し特許の登録査定がなされ、平成9年2月1日、Xは特許権を取得した。Xは、Yに対して特許権侵害訴訟を提起しようと考えている。Yは、特許権侵害の責任を免れるために調査を行った結果、平成5年9月1日にXが自己の特許発明を実施した潤滑油調節器を装着した消防車を一台、横浜市緑区十日市場町の消防署に販売していたという事実があることを突き止めた。ただし、この消防車の潤滑油調節器はカヴァー (取り外しは困難ではない) で覆われていて直接、外部からは見えない状況にあった。現行法の下で、Yの採りうる法的手段を論述せよ(論述の際には、各論点について現行法の規律の合理性が何処にあるのかを明らかにするように努めること)。

[問題2]

 現行著作権法は、複製禁止権を中心としつつ、著作物の使用行為中、公になされるものを別途、禁止するという法制度を採用しているが、複写技術の普及に伴い、最近、制度自体の実効性が問われている。著作権法の複製禁止権中心主義の制度の趣旨と、何故、それが最近、動揺しているのかということ、そして、この問題に対処するために著作権法が法改正により採った対策(二つ)を論述せよ。

[講評]

・今年の試験は、特に三年生が試験日程の関係で勉強不足が目立ち、あまり芳しいものとはいえませんでした。出席点(1回1点、全14回出席者のみ15点) を加えた成績は以下ようになっています(優80点以上、良65点以上、可50点以上) 。

 3年生  優 12 良 26 可 20 不可 21
 4年生  優 12 良 14 可 2 不可 1

[最高得点答案]

・問題1
平松由紀子さんの答案
・問題2
水藤崇司くんの答案

[各問題の解説]

問題1

 a 新規性喪失に関わる問題だと気づいた人は九割以上、そのうち、判例どおり、公に知られる可能性がありさえすれば、実際に公に知られていなくとも、新規性喪失と応えた人も九割程度とかなり高い数字を示したのですが、大半の人が結論を書いているのみで、何故、そのように解釈するのかということに一切触れることなく済ましています。もとより、私は制度設計力を教えようと思ったことはあっても、知識だけを教えようと思ったことはありませんでしたので(将来、特許の新規性喪失という問題関わる人は百人のうち一人いたらよい方でしょう)、答えだけ書いていただいても合格点をあげることはできません。「放っておいても、じきに一般に知られる技術であった以上、あえて(排他権という形で技術の利用を制限するという弊害を有している)特許権を与えて発明の公開を促す必要がなくなっているから」云々といった程度の理由を付して下さった方は、全体の二割程度でした。この点は、皆さんが何故、勉強するのかということにも関わる問題ですが、私としては、答えだけを求める勉強の仕方は私は感心しないということだけを申し上げておきます。

 b 自分の技術を出願よりも先に公知にしてしまったのですから、おそらくは全部公知の事例だということに気づいてほしかったのですが、第1問が公知技術の抗弁や当然無効の抗弁に関わる問題だと気づいた人は、1割り程度に過ぎませんでした。そのなかで模範答案として掲げた平松さんの答案は、その問題を指摘するとともに、ごくごく簡潔に理由付けを示して解釈論を論じており、極めて秀逸です。是非、参考にしてください。

問題2

 貸与権と私的録音録画請求権のことだと二つとも気づいた人は七割程度でした。模範答案として掲げた水藤君の答案で全てが語り尽くされていますので、是非、参考にしてください。



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