科学研究費(基盤S)によって5年間にわたって続けてきた共同研究「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」は、2011年度をもって終了しました。この研究を終えるに当たって、代表者から、これまでの成果と意義について簡潔に説明しておきたいと思います。
このプロジェクトは、21世紀の世界で新自由主義と呼ばれる経済政策、小さな政府路線が社会を分断し、民主主義の土台を掘り崩していることに危機感を持ち、これに対抗する政治理念や政策を考えるという問題意識から出発しました。そして、社会民主主義に裏付けられた市民社会、市民社会のエネルギーを包含した社会民主主義という2つの理念を接合することを目指して、政治理論、比較政治、行政、国際政治、政治過程など政治学の諸分野に加え、経済政策の専門家によってチームを構成しました。
研究開始以後、あたかも我々に難問を投げかけるかのように、政治、経済の大きな動きが続発しました。2008年秋のリーマンショック、オバマ大統領の誕生、日本における政権交代、民主党政権の混迷と3・11と、政治理念や政策が試されるような出来事が相次ぎました。
震災後の日本でも、連帯や相互扶助、ボランティアなど市民のエネルギーを引き出すことが叫ばれました。それをどのようにして政治の仕組みにつなぎ、政策を引き出すかは依然として未解決の課題です。また、これらの問いこそ、我々が追究してきたものであり、内外の研究者を交えた討論、調査、比較研究などから様々な手がかりが見えてきたと思います。
現実の政治では、困難な課題に対して政府が適切な対策を打てない状況で、民主政治全体に対する人々の不満が鬱積しています。政権交代をもたらした市民の熱意は裏切られたという幻滅が横溢しています。このような状況だからこそ、政治学が考えるべき課題を整理し、単純に民主政治を否定する議論を食い止めなければなりません。
1つの結論は、総括シンポジウムでオックスフォード大学のウィル・ハットン氏が強調したように、世の中の仕組みを作り直すという意味での政治の可能性を信じ、政府のみならず、企業、市民社会など社会側の主体を統合して、新たな社会契約を作ることが必要だという点です。
もう1つの結論は、政治思想・政治理論のメンバーが様々な形で説いているように、政治を見る時間幅を長く取り、議論、討議を重ねることで解決策を見つけ出すという市民性の涵養の必要です。
詳しい内容は、メンバーが多くの著書の形で考察を展開しています。特に、このプロジェクトのメンバーは専門的学問の外側の人々も了解可能な、明晰な文章により様々な著書を出してくれたと思います。その点で、メンバーの皆さんの積極的な協力に感謝します。
最後になりますが、事務局で研究活動を支えてくれたスタッフにも感謝したいと思います。
研究代表者 山口二郎
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