新世代法政策学研究 創刊にあたって

 平成19年度から開始されたグローバル COE プログラムは、平成14年度から文部科学省において開始された21世紀 COE プログラムを踏まえつつ、世界最高水準の研究基盤の下で世界をリードする創造的な人材育成を図るため、国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援する制度である。同プログラムの平成20年度の社会科学の分野の募集に対して、北海道大学の法学研究科法律実務専攻、法学研究科附属高等法政教育研究センター、法学研究科法学政治学専攻、公共政策学連携研究部、経済学研究科現代経済経営専攻、情報法政策学研究センターは、「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」をもって、応募し採択された。
  科学技術の進展とグローバル化により社会の相互依存性が高まり、知的財産以外にも、競争や環境等々、二当事者の規律が多様かつ多層的に他者に影響する場面が拡大している(外部性社会)。しかも、規律対象の技術、経済、環境は不断に変化し、総体的な把握を困難とする(対象の不定形性・動態性)。このような外部性社会にあっては、情報を不断に収集し多数の利害を調整する必要があるが、その指針となりうる効率性や厚生の測定は容易ではなく、権利や自律その他の多様な価値を保障し調整する必要もある。ゆえに、法政策の内容の妥当性のみならず、政策形成過程を統御するプロセス正統化を組み合わせ、「正解」が見えない時代の漸進的な法政策過程を規律する学問として法学を再構成する必要がある。本拠点の「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」とは、以上のような問題意識の下、北海道大学の法学研究科法学政治学専攻を主たる拠点として遂行された21世紀 COE プログラム「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」の成果を継承したうえで、これを知的財産法制度以外の分野に応用し、技術的な判断力、民主的な契機、自由を擁護する契機等々に着目しつつ、市場、立法、行政、司法、その他の社会組織間の役割分担(ガバナンス構造)を設計するということを目的とするプログラムである。
  本拠点は、このような新世代法政策学を構築する活動の一環として、知的財産法の分野では、21世紀 COE に引続き、学術雑誌「知的財産法政策学研究」を継続的に刊行する予定であるが、さらにグローバル COE においては知的財産法以外の分野も広く活動の対象とすることに鑑み、新たに本誌「新世代法政策学研究」を創刊し、新世代法政策学の研究成果を世に問うこととした。本誌の刊行により、法学政治学分野の次世代の担い手に一つの指針を提供することができるようになれば、本プログラムの拠点リーダーとしてこれに優る喜びはない。


北海道大学グローバルCOEプログラム
「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」拠点リーダー
北海道大学情報法政策学研究センター長 
田村 善之(法学研究科教授)