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History of European Integration

史料館案内Archives

キリスト教民主主義政治文書館の紹介(板橋拓己・成蹊大学)

キリスト教民主主義政治文書館(Archiv für Christlich-Demokratische Politik: ACDP)(外部サイトへ)

住所:Konrad-Adenauer-Stiftung e.V., Rathausallee 12, 53757 Sankt Augustin

開室時間:月曜日から木曜日は9時から16時30分、金曜日は9時から15時まで。ただし、祝日や年末年始、あるいはイベントなどで閉館される場合があるので、事前問い合わせの際に確認しておくとよい。

はじめに

ドイツのヨーロッパ政策、あるいはヨーロッパ統合とドイツの関係を歴史的アプローチから研究しようとする者にとっては、政党系の財団(Parteinahe Stiftung / Politische Stiftung) が管轄する文書館〔註1〕が、きわめて重要なものとなるだろう。妹尾哲志氏が本ウェブサイトの「ドイツ外務省政治史料館の紹介」 で記しているように、ドイツの主要な政治家の文書は、連邦文書館(Bundesarchiv)や個人文書館に加え、政党系財団の文書館で管理されていることが多いからである〔註2〕 。また、各政党のヨーロッパ政策やヨーロッパレベルでの活動を調べるためにも、政党系財団の文書館史料は欠かせない。

ドイツの政党系財団が管轄する文書館としては、以下の6つが挙げられる。
(1)キリスト教民主同盟(CDU)系のコンラート・アデナウアー財団が管轄するキリスト教民主主義政治文書館(Archiv für Christlich-Demokratische Politik: ACDP)。所在地はザンクト・アウグスティン。
(2)キリスト教社会同盟(CSU)系のハンス・ザイデル財団が管轄するキリスト教社会政治文書館(Archiv für Christlich-Soziale Politik: ACSP)。所在地はミュンヘン。
(3)社会民主党(SPD)系のフリードリヒ・エーベルト財団が管轄する社会民主主義文書館(Archiv der sozialen Demokratie: AdsD)。所在地はボン。
(4)自由民主党(FDP)系のフリードリヒ・ナウマン財団が管轄する自由主義文書館(Archiv des Liberalismus: ADL)。所在地はグマースバッハ。
(5)緑の党系(Bündnis 90/Die Grünen)のハインリヒ・ベル財団が管轄する緑の記憶文書館(Archiv Grünes Gedächtnis: AGG)。所在地はベルリン。
(6)左翼党(Die Linke)系のローザ・ルクセンブルク財団が管轄する民主社会主義文書館(Archiv Demokratischer Sozialismus: ADS)。所在地はベルリン。

以下本稿では、(1)のCDU系のコンラート・アデナウアー財団が管轄するキリスト教民主主義政治文書館(以下ACDPと略記)について紹介する。

註1:政党系の財団は、史料の保管・公開のみならず、政治教育などドイツの政治・社会でさまざまな役割を果たしている。連邦政治教育センター(Bundeszentrale für politische Bildung)による説明を参照(ドイツ語)。http://www.bpb.de/gesellschaft/bildung/politische-bildung/193401/politische-stiftungen(外部サイトへ)

註2:あるドイツの政治家(および官僚や知識人)の個人文書・遺稿(Nachlass)がどこに所蔵されているかを調べるには、連邦文書館が提供するウェブサイト「遺稿データバンク(Zentrale Datenbank Nachlässe)」が便利である(http://www.nachlassdatenbank.de)(外部サイトへ)。たとえば本サイトで初代EEC委員会委員長であるヴァルター・ハルシュタイン(Walter Hallstein)を検索すると、彼の個人文書が、①コブレンツの連邦文書館、②ベルリンの外務省政治史料館、③ザンクト・アウグスティンのキリスト教民主主義政治文書館、以上の3カ所に収められていることが分かる。

所蔵史料の紹介:とくにヨーロッパ統合史との関連で

ACDPは、CDU関連の史資料を幅広く所蔵している。本項では、ヨーロッパ統合史研究者を念頭に、所蔵史料を紹介しよう。

まずACDPの所蔵史料は、①文書史料、②報道史料(重要な日刊・週刊紙や雑誌など各種報道資料を集めたもの)、③メディア史料(写真、ポスター、映像)に分けられている。おそらく研究上最も重要なのは文書史料だが、報道史料もまとまった情報を得るのに有益だし、メディア史料も面白いものが多い(許可がおりれば論文や書籍に転載可能である)。

2013年時点での所蔵史料の一覧(ただし概要のみ)は以下で閲覧できる。
http://www.kas.de/upload/dokumente/acdp/ACDP_Bestandsuebersicht_2013.pdf (外部サイトへ)

また、所蔵史料の概要は以下で検索も可能である。
http://bestandsuebersicht-acdp.faust-web.de/(外部サイトへ)

ACDPが所蔵する文書史料は、大まかに以下の4つに分けられる。
①CDUの各種党組織の史料(州や自治体レベルのものを含む。また、ソ連占領地区および東ドイツのCDUDの史料もACDPに収められている)
②CDU議員団(院内会派)の史料(とくに重要なのは連邦議会議員団関連史料)
③個人文書・遺稿(Nachlass)、寄贈文書(Deposita)
④ヨーロッパレベルおよび国際レベルのキリスト教民主主義ネットワーク・組織に関連する史料

基本的に史料は30年ルールに則って公開されるが、個人文書・遺稿は遺族の許可が必要なものも少なくないので事前に確認が必要である。

個人文書・遺稿のなかでヨーロッパ統合史研究に重要なものとしては、たとえば第3代連邦首相キージンガーの文書、1961年から66年まで外相を務めたゲルハルト・シュレーダーの文書、アデナウアーの側近・官僚たちの文書(ハインリヒ・クローネ、ハンス・グロプケ、ハンス・フォン・デア・グレーベンなど)が挙げられよう。

なお、初代首相アデナウアーと第2代首相エアハルトの個人文書については、個別に史料館が存在する。すなわち、アデナウアー文書はボン郊外のレーンドルフに所在する連邦首相アデナウアー・ハウス財団(Stiftung Bundeskanzler-Adenauer-Haus)、エアハルト文書はボンに所在するルートヴィヒ・エアハルト財団文書館(Archiv der Ludwig-Erhard-Stiftung Bonn)が管理している。

また、ACDPがヨーロッパ統合史研究にとって重要な位置を占める理由のひとつに、ヨーロッパレベルおよび国際レベルにおけるキリスト教民主主義のネットワーク・組織の関連史料を所蔵していることがある。第二次世界大戦後に構築された各国キリスト教民主主義者のネットワークであるNEI(Nouvelles Equipes Internationales)や、非公式のいわゆる「ジュネーブ・サークル」の関連史料は充実しているし、またヨーロッパ・キリスト教民主主義同盟(European Union of Christian Democrats: EUCD)(1965年にNEIが改組)および欧州人民党(EPP)の関連史料も豊富にある。

いくつかの目録(Findbuch)はPDFでオンライン公開されており(http://www.kas.de/wf/de/71.12311/、外部サイトへ)、事前に閲覧史料の目星をつけておくことが可能である。
例1)ゲルハルト・シュレーダー文書の目録
http://www.kas.de/wf/de/33.36561/(外部サイトへ)
例2)NEI関連史料の目録
http://www.kas.de/wf/de/33.44565/(外部サイトへ)

アクセス

ACDPは、かつての西ドイツの首都ボンに隣接する街、ザンクト・アウグスティンにある。市電などの交通網はボンと一体化しており、おそらく日本からの多くの利用者は宿泊地をボンに定めることになるだろう(もちろんザンクト・アウグスティンにもホテルはあるが、いささか寂しいところである)。

ボン中央駅を起点とすると、66番の市電「ジークブルク(Siegburg)」行きに乗り、「ザンクト・アウグスティン・ツェントルム(Sankt Augustin Zentrum)」駅で下車する。乗車時間は約20分。料金ゾーン(Tarifzonen)は「3」であり、2018年1月1日現在で片道5.10ユーロ。

Sankt Augustin Zentrum駅からコンラート・アデナウアー財団までは徒歩数分である。Sankt Augustin Zentrum駅(地上駅)に市電で到着する直前に、進行方向左手の車窓から「Konrad Adenauer Stiftung」と書かれた大きな建物が見えるし、駅から案内看板もあるので迷うことはないだろう。

なお、66番の市電を逆方向に行けば、アデナウアー文書を所蔵する連邦首相アデナウアー・ハウスがあるレーンドルフに着くし、ルートヴィヒ・エアハルト財団文書館も66番沿いにある。さらに言えば、社会民主党関係の史料を所蔵するフリードリヒ・エーベルト財団は66番と一部重なる63番の市電沿いに所在する。よって、ボン周辺で史料収集するにあたっては、66番と63番の市電が重なるあたり、具体的にはボン中央駅からボン大学近辺に滞在するのが効率的だろう。


閲覧室への道

コンラート・アデナウアー財団には、来客用の入り口が2カ所、正面玄関と裏口がある。駅から近い方の裏口【写真1】から入る場合は、インターフォンで来館を伝えて開けてもらう。ただ、初回訪問の際には、いささか遠回りだが、正面玄関【写真2】から入って受付を通した方が分かりやすいだろう。

文書館の閲覧室(Lesesaal)は、アデナウアー財団に入ってから(正面玄関から見ても裏口から見ても)左に向かって通路を進めば到着するが、初回利用時に受付の人が案内してくれるはずなので迷うことはない。

閲覧室の前には、ロッカー【写真3】がある。

なお、初回の訪問時には、文書館の担当研究員が利用史料の概要や利用方法をレクチャーしてくれる。このレクチャーを受けたあとに、閲覧室で史料が閲覧可能となる。


【写真1:アデナウアー財団の裏口】


【写真2:アデナウアー財団の正面】


【写真3:ACDPの閲覧室前のロッカー】

事前問い合わせ

訪問前には事前にメールなどで連絡することが原則的に必須とされている。自分の研究テーマ、閲覧したい史料、訪問日時を伝えるとともに、「利用申請用紙」を予め提出しておくと話が早いだろう(申請用紙の提出は当日でも可)。とりわけ最初のメールのやり取りで閲覧史料を絞り込み、事前に注文しておくと到着後すぐに作業に取り掛かれる。

利用申請用紙は下記からダウンロードできる(PDF)。
http://www.kas.de/upload/ACDP/Benutzeranmeldeformular.pdf(外部サイトへ)

申請用紙に記入した「研究テーマ」と「利用目的」が変わらない限り、一度の申請で何回でも来館できるが、変わった場合は再申請を求められる。

また、スキャンデータや複写物(後述)は、このときに登録したEメールアドレスないし住所に送付されるので、正確に記入すること。

閲覧室について:持ち込み可能物など

閲覧室は8席と小さいが、一人ひとりの作業スペースはゆったりとしている 〔註3〕。閲覧室内に持ち込み可能な物は、筆記用具とノートパソコンのみ。電源はあるが、座る机によっては長めのコードが必要になる。Wi-Fiは申込制。残念ながら、カメラやスキャナは持ち込み禁止である(2018年6月時点)。

また、閲覧室内には所蔵史料の概要一覧と、ACDPの刊行物(後述)が備え付けてある。それ以外の図書資料を閲覧したい場合、隣接する図書室(後述)を利用することになる。

註3:閲覧室内の様子、および利用上の注意の詳細は次を参照(ドイツ語)http://www.kas.de/wf/de/71.3766/(外部サイトへ)

文書の注文・利用方法

まずは目録(Findbuch)を確認し、閲覧したい史料の史料番号をメモ用紙(備え付けのものがある)に記入し、カウンターの係の者に伝える。

史料の引き渡しは月曜~木曜は15時30分まで、金曜日は12時まで。ただし、12時~14時は館員の昼休みであり、この間に注文はできないので、なるべく12時前に注文することが推奨されている。

ACDPの文書史料には、ファイルごとに利用者の署名欄がある。利用者は、閲覧する前に本欄に名前と日付を記入することが求められている(つまり、この署名欄をみると、自分の前に誰が当該史料を閲覧したか分かるようにもなっている)。

閲覧が終わったら、カウンターに史料を返却する。また、利用者ごとに専用の保管棚を一時的に作ってくれるので、翌日以降も閲覧したい場合は、そこに保管しておくことになる。一度に申請できる史料数の上限については、とくに規定はない。

複写について

原則的にデジタル複写(300 dpiのPDF)のみ(枚数が少ない場合、紙の複写を渡されるときもある)。1枚につき0.50ユーロ 。複写の申し込みは、閲覧室にある所定の用紙に必要事項(文書番号や複写枚数など)を記入して、カウンターに申し込む。また、たとえばファイル形式の史料の場合、複写する最初のページと最後のページに紙の栞(これも備え付け)を挟み込む。

複写物の受け取りは、指定されたクラウドからダウンロードする方式である。まず予め指定したEメールアドレスにパスワードが届き、別のメールでクラウドのアドレスが送付されてくる。Eメールを受け取ってから7日間以内にダウンロードする必要がある。

休憩・食事について

コンラート・アデナウアー財団の館内には、飲料とお菓子(チョコ、グミ、ガムなど)の自動販売機が2台あるのみである【写真4】。

このように館内は味気ないが、Sankt Augustin Zentrum駅にはhumaという大きめのショッピングモールが隣接しており、食事はここで調達できる(テイクアウトできるものも多い)。また、humaで電化製品・日用品も調達することが可能である。


【写真4:アデナウアー財団内にある自動販売機】

図書室

ACDPには図書室(Bibliothek)が隣接している。これはドイツおよびヨーロッパのキリスト教民主主義の歴史に特化した図書室であり、きわめて充実したものである。開館時間は平日の9時から13時まで。
図書室のウェブサイト(OPACあり)はこちら→ http://www.kas.de/wf/de/71.4871/(外部サイトへ)

公刊資料

コンラート・アデナウアー財団は、研究者にとって(も)重要な出版物を多く刊行しているが、とりわけ「現代史研究・資料(Forschungen und Quellen zur Zeitgeschichte)」というシリーズは、ACDPを利用する際に重要である 。本叢書には、ACDPに所蔵された史料を編纂・公刊したものが多く含まれているからである。自分が求める史料がまずはこちらで公刊されているかどうかを確認すべきだろう。また、本叢書はCDUの主要政治家の伝記や、ドイツのヨーロッパ政策史など重要な二次文献も含まれており、その意味でも重要である。

さらにコンラート・アデナウアー財団は、①「CDUの歴史」、②「コンラート・アデナウアー」、③「ヘルムート・コール」という3つの大きなテーマについて、きわめて充実したポータルサイトを提供している。関連するテーマを研究する者は、あらかじめチェックしておきたい。

①Geschichte der CDU (http://www.kas.de/de/thema/64/geschichte-der-cdu.html)(外部サイトへ)
②Konrad Adenauer 1876-1967 (https://www.konrad-adenauer.de/)(外部サイトへ)
③Helmut Kohl (http://www.helmut-kohl.de/)(外部サイトへ)

おわりに

ドイツにおける政党系財団の文書館は、たとえば連邦文書館や外務省政治史料館のような大きな文書館とは勝手が異なることが多い。たとえば利用者は少なく(この種の文書館では大きい方のACDPですら、1日の利用者が自分1人ということも珍しくはない)、また閲覧室も狭い(上述のようにACDPは8席、ミュンヘンのACSPの閲覧室にいたっては2~3人分の作業スペースしかない)。いささか杓子定規な大文書館と違って融通が利くところもあれば(たとえば閲覧史料限度数など)、不便な面(利用者数に限度があるため、利用者が多かった場合、そもそも利用できないなど)もある。

ともあれ、困ったことがあればアーキヴィストやカウンターに何でも尋ねてみるのが一番である。政党系の文書館に勤務する関係者の多くはたいへん親切であり、アーキヴィスト(ないし担当研究員)は利用者一人ひとりに懇切丁寧なレクチャーをしてくれるはずである(十中八九、英語でのコミュニケーションも可能である)。

補遺:キリスト教社会政治文書館(ACSP)の紹介

ここで、ミュンヘンにあるキリスト教社会政治文書館(ACSP)についても、ごく簡単に紹介しておきたい。ACSPは、バイエルン州を拠点とするCDUの姉妹政党「キリスト教社会同盟(CSU)」系のハンス・ザイデル財団が管轄する文書館である。

ウェブサイト:https://www.hss.de/archiv/(外部サイトへ)
住所:Hanns-Seidel-Stiftung e.V., Lazarettstrase 33, 80636 Munchen

●開館時間
月曜日~木曜日:8時30分~16時30分
金曜日:8時30分~12時

●アクセス
ACSPは、大都市ミュンヘンの中心部にありながらも、閑静な場所にある。ミュンヘン中央駅を起点にすると、1番の地下鉄(U1)の「Olympia-Einkaufszentrum」行き、あるいは「Westfriedhof」行きに乗り、「Mailingerstrase」駅で下車。「Lazarettstraße」方面の出口に出て、Lazarettstraßeという通りを500メートルほど歩けばハンス・ザイデル財団に到着する【写真】。


【写真:ACSPの正面】

●所蔵史料
ACSPにはCSU関連史料(党関係資料、個人文書・遺稿など)が集められているが、ヨーロッパ統合史研究者にとっての目玉は、何といってもフランツ=ヨーゼフ・シュトラウスの膨大な個人文書だろう。言うまでもなくシュトラウスは西ドイツ史上最も重要な政治家のひとりであり、西ドイツの原子力政策、防衛政策、そしてヨーロッパ政策のキーパーソンである。

●利用上の注意
上述のように、ACSPの閲覧室はかなり狭く、利用者が限られているので事前の連絡が必須である。


(成蹊大学・板橋拓己)

基盤研究(A)「リージョナル・コモンズの研究―地域秩序形成の東アジア=ヨーロッパ比較―」
(研究代表者:遠藤乾)