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History of European Integration

史料館案内Archives

国立文書館 ピエールフィット=シュル=セーヌ館の紹介(中村督・南山大学)

国立文書館 ピエールフィット=シュル=セーヌ館(Archives nationales, Site de Pierrefitte-sur-Seine)
 http://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/(フランス語、外部サイトへ)
 http://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/en/web/guest/home(英語、外部サイトへ))

【開館日・時間】
月曜~土曜・9:00~16 :45
(日曜および祝日、8月と年末年始に2週間ほど閉館)

【住所】
59, rue Guynemer, 93380, Pierrefitte-sur-Seine
*ハンディキャップのある人に向けた対応も可能
http://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/fr/web/guest/acces-handicap(外部サイトへ)

【電話番号】
01.75.47.20.02

【最寄りの駅】
Saint-Denis Université(13番線)


(写真1)ピエールフィット=シュル=セーヌ館(以下、すべて筆者撮影)

1.簡単な紹介

国立文書館は、国立文書館、海外文書館(エクス=アン=プロヴァンス)、労働文書館(ルーベ)の三つの組織で構成されている。いわゆる国立文書館といえば最初の国立文書館を指すが、これがさらに三つの「館」(site)に分かれる。パリ館、フォンテーヌブロー館、そしてピエールフィット=シュル=セーヌ館である。ただし、フォンテーヌブロー館は(利用者からすればほぼ)閉鎖された状態であるので、実質的にはパリ館とピエールフィット=シュル=セーヌ館があると考えてよい。両者の違いは所蔵文書の時代、すなわちフランス革命以前であるか以後であるかにある。革命以前の文書はパリ館、革命以後の文書はピエールフィット=シュル=セーヌ館に所蔵されている。また、私文書も後者である。つまり国立文書館ピエールフィット=シュル=セーヌ館はフランス近現代史に関する史料が所蔵されていることになる。

ここではこれからピエールフィット=シュル=セーヌ館に行く予定の方に向けて、その利用案内を中心に紹介する。ただ、あくまで筆者の経験に基づいた紹介であることは先に強調しておきたい。というのも研究対象、時期、方法などによって利用の仕方は大きく異なってくるからである。実際、筆者自身、いまでも利用するなかで初めて知る制度や方法が少なくない。したがって中心的な狙いは同館の入門的な事項を記して利用のハードルを下げることに定める。また、同館の位置づけや制度に関する概略は他に譲る(*1)。

まず国立文書館ピエールフィット=シュル=セーヌ館の利用にあたって押さえておきたい特徴を述べておきたい。

第一は現代史研究における国立文書館所蔵文書の位置である。国立文書館はその名のとおりフランスを代表する文書館であり、多種多様のテーマの史料が所蔵されている。筆者の経験でいうと、フランスで提出された現代史の博士論文(あるいは研究指導学位論文)や学術書で国立文書館の史料が引用されていないのを見たことがない。他方、上記のような学術成果において一次史料が国立文書館の史料のみということも見たことがない(もちろん両者ともあり得る)。分野に依るが、政治外交史ならこのサイトで紹介されている外交史料館やパリ政治学院付属現代史文書館などに所蔵されている史料が利用されるだろう。つまり現代史研究において国立文書館の史料はそれだけでは十分ではないが、まったく利用されないで済むこともないのである。これはフランスの歴史学固有の制度的側面として確立されたと考えられる。しかし、同時に、その前提には国立文書館所蔵史料の量が膨大であり、ある研究対象に対して何かしらの史料を直接的でなくとも間接的に関係づけられることがある。

第二はピエールフィット=シュル=セーヌ館は2013年に開館したばかりで、現在、移行期にあるということである。とりわけフォンテーヌブロー館の文書が移管中であり、2020年に終了するという(ただ、2018年7月、現時点でも大部分の移管作業が終わっており、とくに統合史関係の史料は支障なく閲覧することが可能であるように思われる)。さらに移行期といえば文書のデジタル化も注目に値する。現時点ですでに800万の画像がサイトを通じて閲覧可能である。たとえば、2018年は68年5月の50周年記念ということもあって、862の関連史料(国家公安法院のコレクション)が公開された。デジタル化の動きは今後も進み、それに応じて利便性は高まるだろうが、史料の網羅的な閲覧にはまだ不向きであり、しばらくは様子を見るしかない(*2)。

第三は「アルシヴィスト=文書館員」(archiviste)の専門性の高さである。アルシヴィストに自らの研究を伝えて助言をもらうことはつねに念頭に置いておくのがよい。アルシヴィストは驚くほど幅広い知識を有しており、関連史料に関して幅広い指示を与えてくれる。国立文書館を初めて利用するにあたって、もっとも重要なのはこの点であると思われる。使用言語はフランス語に越したことはないが、英語で対応可能なアルシヴィストもいるかもしれないので積極的に相談することを勧めておく(冒頭のようにウェブには英語版に加えてスペイン語版もある)。

(*1)小宮山敏和・太田由紀「フランスの公文書館制度及びフランス国立公文書館視察報告」、『アーカイブズ』、国立公文書館、第52号、2014年、28-41頁。なお同報告のリンクは以下(2018年7月31日確認)
http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_52_p28.pdf
(*2)国立文書館のデジタル化に関しては以下を参照。中村督「デジタル時代の歴史学」、『現代史研究』、現代史研究会、第58号、2012年、65-74頁。

2.アクセス

以上のように史料についてはアルシヴィストに尋ねれば一安心である。しかしまずはそこに辿り着かなければならない。アクセスは簡単といえば簡単であるが、多少の注意が必要である。

パリの中心からピエールフィット=シュル=セーヌ館に向かうには、基本的には地下鉄(メトロ)13番線に乗るのが早い。そして13番線終点のSaint-Denis Université(サン=ドニ・ユニヴェルシテ)で降りる。しかし問題は13番線が途中で分岐することである。路線図の写真にあるようにSaint-Denis UniversitéとLes Courtillesという2つの終点がある。ホームの電光掲示ではSaint-Denis(方面)とAsnières-Gennevillier(方面)とあるが、前者の電車を待つ。


(写真2)サン=ラザール駅から見た路線図


(写真3)電光掲示(青い光の方がSaint-Denis Université行き)

もちろん、乗りまちがいをしたところで、こうした失敗も史料調査の一つ(あるいは醍醐味)とか戻ればいいだけと思える人には大した話ではないが、筆者の経験では、片方の終点に着いてまちがいに気づくと調査の意欲を削ぐのに十分な理由となってしまうので乗車の際によく確認することを勧めたい。

無事にSaint-Denis Universitéに到着する。地上の出口からピエールフィット=シュル=セーヌ館の門までは歩いて1、2分である。駅名からも分かるように、この駅を出て正面にはパリ第8大学(ヴァンセンヌ・サン=ドニ大学)がある。パリ第8大学を左に見ながら、通りを歩くとすぐにピエールフィット=シュル=セーヌ館である。ちなみにこうして大学や文書館が集まっているのはパリの首都圏拡大政策(グラン・パリ計画)の一環として再開発が進んでいるからである。


(写真4)Saint-Denis Université駅


(写真5)案内掲示


(写真6)駅構内の地図(写真上方の大きな敷地が国立文書館)


(写真7)駅を出てすぐの案内

3.登録手続き

入口で荷物検査を受けて登録手続きをする。必要なのは写真が掲載された身分証明書のみである。日本から来た場合は要するにパスポートを持参すればよい。大きく「INSCRIPITION」(登録)と書かれた場所(というか部屋)があるので、そこに入って、職員の指示にしたがう。そこで住所や電話番号などを伝えるのだが、もちろん日本のもので問題ない。写真も職員が小型カメラで撮るので持参する必要はない。登録費用はかからない。


(写真8)建物正面(入口で荷物検査を受ける)


(写真9)建物正面

最近では「予備登録」(pré-inscription)といってウェブ上で先に簡単な登録を済ませることができるようである(以下のリンクを参照)。さらにその際に二つの史料だけなら予約できるので、そうしておくと来館初日から効率的に作業を進められるだろう。ただ、予備登録を済ませておいても、上の部屋で身分証明書の提示などを行うことが求められる。

登録のページ
http://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/fr/web/guest/conditions-d-inscription(外部サイトへ)

4.目録の確認-史料申請の方法

登録後(あるいは予備登録の際)に史料申請をする。史料申請自体はウェブを通じて行う。問題は膨大なコレクションのなか何を(何から)閲覧するのかである。そのための方法として以下を挙げておきたい。

第一は繰り返しになるがアルシヴィストに尋ねることである。ただウェブを通じて遠隔的に申請できることを考えると、ある程度は先に見当をつけておくことが求められる。そこで第二の方法として目録から確認しておくことが重要となってくる。写真10右側のスペースに一連の目録が置かれている。しかし、今日ではわざわざ文書館に足を運んで目録を確認する必要はない。ほとんどすべてデジタル化されているからである。


(写真10)右側が目録の閲覧室・左側が史料の閲覧室(撮影許可済)

私見では国立文書館の利用にあたってここ数年でもっとも便利になったのは目録の閲覧である。いずれの目録もそれなりの量があるので、それをダウンロードして研究に必要と思われる史料を確認するとよい(「6」を参照)。また各目録の最後には、そのコレクションに関連する文献と史料の所蔵先が掲載されており大変に便利である。文献に関しては多少抜け落ちていることもあるが、史料の所蔵先の記載は充実しており次の調査計画を立てるのに役立つだろう。

第三および第四の方法は応用である。第三は研究対象や領域によっては一次史料案内が出版されているので、それを利用するというものである(*3)。第四は先行研究で利用されている史料の番号から辿ることである。基本的に一つの文書(箱)に数百ページは史料が入っているので、先行研究で言及されていない史料のなかに重要なものがあるかもしれない(もちろん先行研究で参照あるいは引用されていたとしても、分脈が変われば史料の意味合いも変わる)。それだけでなくその番号の前後にも関連史料がある可能性も高い。

(*3)日本でも以下のように国立文書館の政治外交史料は紹介されている。上原良子「パリの文書館について-第四共和制期の政治外交史を中心に」、『現代史研究』、現代史研究会、1994年、40号、83-87頁。

5.史料の閲覧と記録

上記のように史料申請はウェブを通じて行う。「4」で確認した史料の請求番号を入力すればよい。国立文書館内外から可能である。文書館内から予約すると大体1、2時間くらい待つ必要がある。あらかじめウェブから予約しておくと待ち時間がない。

いよいよ史料の閲覧である。まずは閲覧室(写真10左側)の受付に行き、席を予約すると同時に、申請していた文書(箱)を受け取る。最後の問題はそれをいかに記録していくかである。方法としては写真、コピー、鉛筆による書き写しがある。筆者はコピーをしたことがないが、たしかに複写のための部屋があるので可能なのだろう(コピーできる史料は写真撮影も認められているはず)。ピエールフィット=シュル=セーヌ館で一番目にするのはカメラによる撮影である。少し前はデジカメで撮影する利用者の姿が多く見られたが、最近では携帯電話(スマートフォン)やタブレット型パソコンを使う者も増えてきたように思う。いずれにせよ立ったり中腰になったりしながら「一枚でも多く」という精神とどこかで折り合いをつけなければならない。また、手書きでしか記録を認められない文書もあり、その場合は写経をする心構えでひたすらメモを取るしかない。写真撮影が可能かどうかは文書次第であるので確認する必要がある。


(写真11)左側が史料申請のための部屋・右側が複写関係の依頼をする部屋(撮影許可済)

6.政治外交史に関する史料

政治外交史に関する史料は観点や文脈次第で変わってくるが、(1)1789年から今日までのコレクションと(2)私文書のコレクションが基本となるだろう。それぞれどういったコレクションがあるかを知るにはその一覧を見るとよい(以下のリンク先を参照)。(1)でいうと大統領府文書(AG)のほか戦争関連の文書、(2)でいうと政治家(一例だけを挙げるとルネ・プレヴァン、ヴァンサン・オリオール、ルネ・コティなど)や政党(人民共和運動(MRP)やレジスタンス民主社会主義連盟(UDSR)など)の文書がある。以下のリンク先で関心のあるものを選択すると目録が掲載されている(PDFによるダウンロードも可能)。

(1)1789年から今日までのコレクション
https://www.siv.archives-nationales.culture.gouv.fr/siv/rechercheconsultation/consultation/pog/consultationPog.action?pogId=FRAN_POG_04&existpog=true&preview=false(外部サイトへ)

(2)私文書のコレクション(個人、家族、組織のコレクション)
https://www.siv.archives-nationales.culture.gouv.fr/siv/rechercheconsultation/consultation/pog/consultationPog.action?pogId=FRAN_POG_05&existpog=true&preview=false(外部サイトへ)

7.その他

食事については館内に簡単な売店がある。また、駅構内にもパン屋があるので、来館する時間帯によってはそこで買っておくこともできる。

また、ピエールフィット=シュル=セーヌ館では歴史に関わる展示が開催されている。2018年度は68年5月特集のほか、今年パンテオンに合祀された政治家シモーヌ・ヴェイユの特集が組まれている。写真撮影や書き写しで呼吸が浅くなってきたら気分転換にこうした展示を見るのもいいだろう。


(写真12)展示の部屋


(中村督・南山大学、2018年8月23日公開)

基盤研究(A)「リージョナル・コモンズの研究―地域秩序形成の東アジア=ヨーロッパ比較―」
(研究代表者:遠藤乾)