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History of European Integration

史料館案内Archives

欧州委員会歴史文書館について(川嶋周一・明治大学)

欧州委員会歴史文書館 European Commission - Historical Archives:ECHA (外部サイトへ)

住所
CSM1
Cours Saint-Michel, 23
1040 Bruxelles.



開室時間
月~木 9 :00~17:00
金   9:00~16:00

なお、12:30から14:00まではお昼休みの時間である。この時間帯、その部屋にいる分には何をしてもよいが(お昼休みだからと言って閉室になる訳ではない)、アーキビストなどの職員もお昼休憩に入るため、問い合わせや新しい資料の請求は出来ない。また、お昼休み時間帯に訪問しても入館できない(後ほど詳述するが、入館の際アーカイブから担当者が入口まで迎えに来ないと中に入れてくれないため)。

開室時間は、アーカイブに勤務する人がどれくらいいるかによって異なるため、最新の情報はサイトで確認されたい。
また、これとは別に祝日が設定されている。これも、年によって異なる可能性があるので、最新の情報をサイトで確認してほしい。


1.位置づけ

欧州委員会歴史文書館(ECHA)は欧州委員会の書類を収集・整理・所蔵管理・公開を行うアーカイブである。欧州委員会の一部局として設置されている。EUの各機構には、それぞれ史料館(ないしは史料館的サービスを行う部局)が設置されているが、ECHAは理事会アーカイブと並んで、EUにおける大規模かつよりオープンなアーカイブである。フィレンツェのHAEUと混同しないように注意。


2.アクセス

現在、ECHAの閲覧室は、ブリュッセルの中心部からメトロで10分程度のMerode駅から歩いて5分程度の欧州委員会の建物(入口はPère de Deken通り側)の一室に位置している。サンカントネール公園がすぐ近くにあり、辺りは閑静な住宅とオフィスが混在しているやや高級感が漂う地域である。ECHAは、現在のを含め、この15年間で四回閲覧室の場所(建物)を移動しており、現在の閲覧室が永続する可能性は低いと思われる(アーキビストもそう示唆していた)ので、サイトで必ず確認することをお勧めする。


(現在のECHA閲覧室が入っている欧州委員会の建物。いつまでここにあるのか…)


3.作業言語

英語が完全に通じるが、スタッフによってはフランス語によるコミュニケーションも可能である。


4.事前コンタクト、訪問時の手続き、必要書類

ECHAに初めて訪問する際には、訪問の遅くとも15日前(平日のみをカウント)に問い合わせのメールを出すことが求められている。自分の研究テーマと読みたい史料について書くと、向こうのスタッフがかなり丁寧に所蔵資料を調べて、このような史料があるというリストを返送してくれる。特に文書館史料にあまり慣れておらず、このやり取りを何度も繰り返すことが見込まれる場合、2カ月位前からコンタクトを取った方がよい。また、下記のARCHISplusで予め史料番号が分かっている場合、その史料番号と共に、訪問のアポイントメントを取ることが求められる。

なお、問い合わせの際、特に指導教官等の推薦状は必要とされない。

その上で、訪問日時を明確に指定して、事前に向こうに申請する必要がある。どんなに遅くても2日前(平日のみカウント)には申請することが求められている。近年のテロの影響をうけて警備が厳格となっている。このようなやり取りによって送られる日時が指定された警備用のパスをプリントアウトしたうえで、その指定された日時に訪問しないと建物の中に入らせてもらえない。入口で、アーカイブ利用者であることやアポイントメントを取っていることを述べて、警備用パスを提示すると、パスポート(身分証明書:日本人の場合はパスポート)の提出を求め、チェックを受ける。警備員のOKが出ると、その日限りの訪問者用のシールを渡され、服の上から張るように求められる。荷物検査がある場合もある(カバンの中を見られるのは覚悟したほうがよい)。荷物検査を通っても、アーカイブの担当者が建物入口まで迎えに来るまで、勝手に中に入れない。

まとめると、ECHAの訪問時には、以下の二つの書類が必要である。

①パスポート
②警備用パス(e-Pass)をプリントアウトしたもの

なお、訪問の際、メールのやり取りについて、核となるものについては念のためにプリントアウトしておくことを勧める。警備員も千差万別で、不慣れな人の場合は自分が訪問したい部署がどこなのかよく分からなかったりすることもあるからである。そのようなときは、メールのプリントアウトを見せて、担当者の名前を教えるとスムーズに行く場合がある。
逆に言えば、アポなしではECHAには入れない。ブリュッセルに居て、短時間であってもどうしても急に訪問せざるを得なくなった場合は、電話での問い合わせになろうかと思われる。



 (写真:送られてきたe-Passのスクリーンショット。個人情報については加工してある箇所がある。)


5.ECHAの所蔵資料と注意すべき点

1)所蔵史料の種類
ECHAに所蔵されている所蔵史料は欧州委員会の史料である。とはいえ、正確に分類すると、以下の四種類の史料が所蔵されている。

①ECSCの高等機関の史料
②EEC委員会の史料
③ユーラトムの委員会の史料:以上の①~③までの史料は、1967年までである。
④欧州共同体委員会の史料(1967年以降):1967年にECSC、EEC、ユーラトムの三共同体の機関の委員会が合併し、一つの委員会となった。

この四種類の委員会史料がECHA所蔵史料の中核になるが、委員会が持つEU(EEC/EC)内で持つ立法機関としての役割から、ECHAには以下のような三種類の「コレクション」を保有している。

①会議議事録
②COM史料
③スピーチ

その他に、欧州委員会が発行している各種年鑑や活動報告書などを所蔵している。

なお、COM史料というのは、欧州委員会が立法の際に起案する書類のことで、COM(年号)通し番号[例えば、COM(1967)112という風に]という番号が付けられる。COM史料は委員会による意思表示として最終的にまとめられ、多くは理事会に送付されるので、EU(EEC/EC)における立法過程を研究する際に非常に有益である。下記に記した検索方法でヒットした数多くのCOM史料が、PDFの形で現在はウェブ上で閲覧可能となっている。

一言付言しておくと、委員会史料とはいっても、委員会は日常的に様々なアクター、特に理事会や欧州議会と書類のやり取りをしているので、ECHAにおいても、理事会や欧州議会の書類を数多く閲覧できる。しかし、体系的に所蔵している訳ではないので、注意が必要である。

2)フィレンツェへの移送(トランスファー)とHAEUとの関係

また、ECHAに所蔵されている史料のうち、30年ルールが適用され整理された史料は、マイクロ化されたうえで原本がフィレンツェのHAEUに移送される。HAEUに移送された史料は、ブリュッセルではマイクロフィッシュの形で保存され、ECHAで閲覧できる。したがって、HAEUが所蔵している委員会の史料は、原則的に全てブリュッセルで閲覧できる。では、欧州委員会の史料を閲覧するためにブリュッセルとフィレンツェのどちらかに行けば事足るのであろうか。それは、どのような史料を閲覧・調査したいのかによる。リサーチしたい主題が専ら委員会内部の立案過程にあるならば、ブリュッセルに行った方が、アーキビストの力を借りながら包括的な調査をすることが出来る。他方で、委員会だけに限らず、その他広く欧州統合に関する調査をする場合は、フィレンツェに行った方がよいであろう。

3)30年ルールと例外
欧州委員会の史料は、30年ルールで保存されており、機密史料の除き、30年を越した史料は原則すべて開示される。ただし、ECHAで注意すべき点は、30年が経過していない史料を閲覧することが、かなり可能である、しかも場合によっては大規模に、という点であろう。自分の研究対象が割と近年の史料であっても、まずECHAに問い合わせてみて、開示可能なのかどうかを確認することが必要である。開示のための手続きが必要となるが、それはアーキビストが助言をしてくれるので、心配無用である。欧州委員会の史料は技術的な行政文書が大半のため、公開が見合わされるような機密資料は数が少ない。ある特定の政策領域について、大規模に開示請求を行い、大量の30年未満の史料を閲覧・調査する研究者・大学院生は数多いように感じる。

4)ECHAの史料は大半がフランス語
最後に注意すべき点であるが、1970年代までの委員会内部の史料は、原則的にフランス語によって作成されているという点である。イギリスが加盟した後、確かに英語の史料は増えるが、それでも少なくとも70年代までは第一の作業言語はフランス語である。この状況は、少なくともEUの発足まではあまり変わらない印象がある。他方で、公式書類(例えばCOM文書)はすべての公式言語で作成されていることになっており、史料を入れているボックスの中の史料の大半が、言語の違う同一史料で埋め尽くされていることも珍しくない(これは理事会史料でも同様であり、理事会史料の方が各国への配慮からより徹底していると言える。理事会の議事録は公式言語の分だけ作成され、また残されており、調査の際には相当の重複をかき分けて必要な言語のバージョンのみを探す必要がある)。また、何故か特定の言語のバージョンのみが残されている場合もある(例えばドイツ語版である。オランダ語版のみが残されていたという経験はない)。いずれにせよ、フランス語の史料が多い点は、予め頭に入れた方がよい。


6.史料の探し方

ECHAに所蔵されている史料を探すには、二つのやり方がある。まず一つは、アーキビストに出来るだけ自分の望む史料の情報を伝えることである。ECHAのアーキビストは正確かつ丁寧に返答してくれる。第二に、ECHA専用のサーチエンジン(ARCHISplusと呼ばれている)を利用することである。ECHAのサイトには、上記の数種類の史料に対応して、四種類のARCHISplusと一つの紙媒体のカタログ(オンライン上で閲覧可)がある。ARCHISplusは①全般的な史料用、②演説用、③議事録用、④COM史料用の四種類があり、ECSCの高等機関に関する史料に対しては、紙ベースのカタログ(一部)がウェブ上で閲覧可能である。かなり特定の史料を調査したい場合を除き、①の全般的な史料用のARCHISplusを利用するのが、よいと思われる。


7.文書の注文方法、注文数、気をつけるべき点等

ECHAに訪問する場合、これまで述べたように、勝負はほぼ事前準備で決まっている。史料の原本は、基本的にブリュッセル周辺の倉庫に保管されており、ECHAの閲覧室が入っている建物の中に所蔵されている訳ではない。したがって、紙媒体の史料を新たに閲覧しようとすると、数日から一週間程度の移動時間が必要となる。他方で、フィレンツェのHAEUに移管されマイクロ化された史料については、閲覧室内にそのマイクロが保管されているため、即時閲覧が可能である。ECSCや1960年代の史料については、多くがマイクロ化されているが、1970年代の史料についてはマイクロ化されているとは限らないため、自分が閲覧したい史料がマイクロ化されているかどうか、先に問い合わせしたほうがよい。

事前にアーキビストに問い合わせして史料を用意してもらった場合、閲覧室に入ると、その史料が全て机の上に用意されている。したがって、滞在期間を使ってその(山のような)史料と格闘する形を取ることが多い。

マイクロ化された史料を閲覧したい場合は、史料番号(BAC 3/1965 100 など)を係りの人に何かメモ用紙(閲覧室に備え付けられている)に書いて手渡せば、すぐに持ってきてくれる。請求のためのシステムがある訳ではない。返却したい場合、その係りの人に手渡せばよい。そういう意味では、アナログな仕組みになっている。注文する数に、特に上限が設けられてはいない模様である。

8.複写

ECHAの複写はすべて無料でデジカメでも自由に複写できる。30年以内の最新の資料については念のためアーキビストに問い合わせた方がよいが、ECHAで複写を許されなかった史料は、個人的には出会ったことがなく、かなり例外的ではないだろうか。なお、ここで言う無料とは、紙ベースでもそうである。通常のコピー機をつかった複写でも費用は請求されない。マイクロリーダーで読む史料は、PDFに変換して複写することが可能だが、これは一枚一枚に時間がそれなりにかかるので、注意が必要である。


(写真:ECHAのマイクロリーダーとモニター。PDF化してUSBに入れて持って帰ることが出来るため、ECHA訪問の際にはUSB等の外部記録端子が必須)


9.ブリュッセル市内の移動について

ブリュッセル国際空港から市内に移動する場合、鉄道が簡便。どの列車も基本的にブリュッセル市内の主要駅(北駅、中央駅、南駅)に停車する。ブリュッセルと他国の主要都市(ロンドン、パリ、アムステルダム等)を結ぶ長距離列車(新幹線)の発着は南駅で、中央駅ではない。中央駅の方がブリュッセル市内の中心街(グランプラスなど)に近く、観光客の多い繁華街となっている。南駅は、周辺には大きなホテルも多いが、治安としてはあまりよろしくない。

ブリュッセル市内の移動は、バス、トラム、メトロ(地下鉄)があり、メトロが一番早く簡便だが、EU本部最寄り駅でテロがあったため、利用に躊躇う方もいるかも知れない。そういう場合は、バスやトラムもかなり発達しているので、それらを上手く利用することをお勧めする。なお、ブリュッセル市内の公共交通機関の切符は共通なので、最初に滞在期間を考えてお得な切符を買っておくとよい。一回券は、60分間の乗り換えが無料である。一週間券はなく、3日券か10回分の回数券が現実的であろうか。一回券では空港と市内間の移動は出来ないが、3日券では空港―市内間の移動も含まれるのでよりお得ではある。


10.個人的感想、食事、その他

コーヒー等の自販機コーナー(リフレッシュスペース)がすぐ近くにあり、コーヒー休憩は可能である。食堂(カフェテリア)は、現在の建物に移転してからは利用していないが、職員が利用しているものと同じところが使える、との説明を受けた。


(写真:リフレッシュスペースの自販機。ジュース、スナック、コーヒーが揃っている。紙幣は使えず、コインが必須)



(写真:リフレッシュコーナーの机と椅子。あまり広くない)

また、以前の閲覧室は非常に広く快適に過ごせたが、現在の閲覧室は大変狭くなって、紙史料の閲覧者は4名も入ればぎゅうぎゅうに、マイクロリーダー利用者も3名程度位しか入る程度の広さしかない。



(非常に狭い閲覧室。全体でもこの写真の倍くらいのスペースしかない。2018年4月現在リノベーション中とのことなので、拡張が望まれる)

なお、閲覧室内ではゲスト用の無料のWifiが使える。

筆者が初めてECHAに足を踏み入れたのは2001年のことだったが、カフェテリアについて言えば、三度場所を変えたにも関わらず、定食タイプの昼食を出してくれるカフェテリアが併設されていることはなかった。すべて、食べ物はサンドイッチしか売っていないタイプのカフェテリアである。これは、理事会史料館とは大きな違いである(理事会史料館を利用する際のひそかな楽しみはバリエーション豊かな食事を提供するカフェテリアでお昼を取ることである)。現在の閲覧室からアクセスできるカフェテリアが、定食タイプであることを唯一の楽しみとして、次回訪問してみたい。

最後に、繰り返しになるがECHAをどう使うかは、事前の入念な準備(つまり、ARCHISplusでひたすら関連するキーワードを使って関係しそうな史料をピックアップすること)やアーキビストとのやり取りでほぼ全てが決すると言ってよい。特に、アーキビストのJoceline Collonval氏は個人的にはもう10年以上の付き合いになるが、毎回テーマを変えて数多くの史料を申し込んだり問い合わせをしたりしても、嫌な顔せず色々教えてくださり、感謝に耐えず、この場を借りて深くお礼を申し上げたい。(了)


(川嶋周一)

基盤研究(A)「リージョナル・コモンズの研究―地域秩序形成の東アジア=ヨーロッパ比較―」
(研究代表者:遠藤乾)