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History of European Integration

史料館案内Archives

ヨーロッパ・ジャン・モネ財団付属史料館について(川嶋周一・明治大学)

ヨーロッパ・ジャン・モネ財団付属史料館 Foundation Jean Monnet pour L'Europe: FJM(外部サイトへ)
住所:Ferme de Dorigny, CH-1015 Lausanne



*以下の情報は、2013年春の訪問時の情報を基に執筆しています。実際に訪問の際には、必ずコンタクトを事前にとって、最新の情報を確認してください。

開室時間  平日のみ。詳しい開室時間は問い合わせの時に要確認。

1.位置づけ

ヨーロッパ・ジャン・モネ財団(FJM)は、ヨーロッパ統合の父として名高いジャン・モネが寄贈した個人文書を管理するアーカイブとして、また同時にヨーロッパ統合を研究する独立的学術機関として、1978年にモネ自身によってローザンヌに設立された。ローザンヌに設立されたのには、前史がある。1950年代からモネと親交のあったスイス人アンリ・リーベンが1957年にローザンヌ大学に新設されたヨーロッパ統合講座担当教授に就任し、リーベンはヨーロッパ研究所を立ち上げた。60年代に既にモネは、リーベンの研究所に自らの史料を寄贈することを決めている。そして78年に実際にモネが文書を全て寄贈して設立することとなった。81年に、スイスのボー州政府がローザンヌ大学のキャンパス内にあった農舎風建築物(Ferme de Dorigny)を改築し、FJMに貸与することを決定し、以降、FJMはFerme de Dorignyに入居してその建物として使用している。

FJMには、その後モネ以外のヨーロッパ統合に深く関与した著名人物の個人文書が寄贈され、統合史研究に不可欠なアーカイブとして発展している。

リーベンは、1958年よりカイエ・ルージュと呼ばれるヨーロッパ統合に関する様々な研究所や回顧録、資料集を出版していた。現在はFJMがこのシリーズの出版に当たっている。また、さまざまなシンポジウムや研究、統合に関する幅広い書籍の収集など、ヨーロッパ統合の推進と支持の立場を明確にしつつも(ただし、特定の政党や政治勢力との結びつきはないとしている)、学術的なヨーロッパ統合研究を支援し行う場として、またその前身を含めると既に半世紀近い歴史を誇る研究所として、FJMは大きな存在感を発揮している。

(以上のFJMの歴史については、FJMのサイト内記述を参考にした)

2.全体的な注意点

FJMは小さなアーカイブなので、閲覧申請や手続きなどはすべてアナログで、かつアーキビストとのやり取りを伴う事前の問い合わせが必要である。アーキビストが出張などで不在の際には訪問できない時期もある。自分が訪問を希望する時期にFJMが対応してくれるかどうかを確認する必要がある。反面、小さなアーカイブの利点として、閲覧者とアーキビストとの距離が短く、気軽に色々尋ねることが出来るし、またそうしないとうまく利用できない。

3.アクセス

上述のように、FJMの建物はローザンヌ大学のキャンパスの中にある。ローザンヌ大学は市の中心街とトラム(メトロ)でつながれており、FJMはUNIL-Chamberonne駅とUNIL-Mouline駅のちょうど中間地点にある。行きはChamberonne駅で降り、帰りはMouline駅から乗るのをお勧めする。


(写真:FJMが入居するFerme de Dorignyの外観)

4.作業言語

フランス語が基本だが、英語でも全く問題はない。

5.FJMに保存されている資料

2018年4月現在、FJMは主として以下の個人文書を所蔵している。

①ジャン・モネ文書:ジャン・モネ文書の概略的なカタログはオンライン上で確認できる)

②ロベール・マルジョラン文書:OEECの事務局長を務めた後、1960年代に委員会副委員長を務めた。戦間期のマルジョランの活動から戦後のヨーロッパ的活躍を広くカバーしており、FJMのアーカイブとしてはジャン・モネ文書に次ぐ重要な位置づけを為している。

③ロベール・シューマン文書:シューマン・プランで有名すぎるほど有名だが、彼の名前を冠した文書を読めるのは現在ここだけである。ただし、これとは別の個人文書が存在しており、いずれどこかで公開になる、という話を聞いたことがあるが、詳細は不明。

④ジャック・ドロール文書(2016年2月から公開開始):全体的な解説はこちらを参照。ただし、ドロール文書はEUIでも閲覧できる。この二つのファイルが同一なのかは未確認。EUIのドロール文書のカタログは、ここを参照。

⑤パオロ・エミリオ・タヴィアーニ文書:シューマン・プランの交渉時にイタリア代表を務め、その後イタリア内政で主要閣僚を務めたタヴィアーニの文書。主としてシューマン・プラン交渉に関する史料を保存

⑥ロベール・トリファン文書:OEECで経済協力実務にも関わった、ベルギーの経済学者で、日本では英語読みのトリフィンの方が知られている。

⑦ジャック・ファン・ヘルモン文書:モネが立ち上げた「ヨーロッパ合衆国のための行動委員会」のメンバーにしてユーラトムの局長を務めた。

⑧ミシェル・ゴーデ文書:初代のEEC委員会法務局局長を務めた。

それ以外にも多くの文書を保有している。詳しくは、こちらのページを確認されたい。

6.閲覧申請と手続

小さなアーカイブなので、事前問い合わせが必要である。アーカイブ責任者に、①現在進めているテーマ、②読みたい史料、③訪問予定時期について、メールを出す。ほどなくして返事が返ってくると思うので、読みたい史料がきちんと公開されていることを確認し、訪問したい日時のアポイントメントを取ったうえで現地に向かう。私の場合は、返事の際にやや細かい閲覧申請書と閲覧に関する規定のファイルが添付で送られてきて、申請書は予め書いてきて、訪問した時に提出してくれればよい、と言われた。

なお、ウェブ上で公開されている史料カタログは概略的なもので、具体的にどのような史料があるかについては分からない。詳細なカタログは、現地に行けば見せてくれる。その上で、読みたい史料を相手方に伝えると、すぐに持ってきてくれる。小出しに伝えるよりも、まず関連しそうなものを全て伝えた方がよい。閲覧したい史料のリストを伝えると、持ってこれる分だけの史料を作業用のスペースに置いてくれる。後はひたすら、その史料と格闘するような形になる(少なくとも2013年時に利用した時はそうだった。ただし、その後主任アーキビストが交代しているので、多少の利用方法の変更はあり得ると思う)。

アーカイブへの連絡先については、こちらのページの一番下に記載されている。

7.訪問時

小さな建物だが、受付がある。受付で、アーカイブの利用者でアポイントメントを取っている、と言えば取り次いでくれる。あとは、案内されて、自分の研究関心やテーマなどを述べて、関心ある史料を言えば、関連文書の詳しいカタログを見せてくれるので、それを読みながら閲覧したい史料番号をチェックし、アーキビストに伝える(昼休みでない限り、20分程度で持ってきてくれる)。建物内の利用方法や閉室時間、史料の複写(デジカメの利用可かどうか)などを確認したら、あとは史料が手元に届くのを待ち、そしてひたすら史料と格闘するのみである。


(写真:作業用スペース。個室に通され、開室時間中は好きに使ってよかった)

8.食事・休憩等

FJMの建物は小さく、私が訪問した際、コーヒーの自販機は設置されていなかった。その代りに、スタッフが利用していたネスレの家庭用エスプレッソマシーンがあり、それを自由に使ってコーヒーを飲んでよいと言われたので、利用させてもらった。今は日本でもよく見かけるタイプのものだが、当時は中々珍しく、味に不安があったが、一口飲んでみるとかなり美味しかった。現在は定かではないが。建物の性格上、不特定多数の人々が訪問するものではないので、飲み物に不安がある場合、ミネラルウオーターのペットボトルを持参したほうがよい。

食事については、ローザンヌ大学のキャンパスの一角にFJMの建物があるため、昼食はローザンヌ大学の食堂を利用した。昼食の時間はFJMの職員も最寄りの食堂で食事をとるようで、一回たまたま一緒に食事したこともあった。食堂は何か所もあり、職員に場所を聞くとよい。時間が勿体なければ、街中で予めサンドイッチ等の食事を買ってくる方法もある(その場合、作業用スペースで食事を取っていいか、確認したほうがよいだろう)。ただし、スイスの物価は非常に高く、(レートにもよるが)500mlのミネラルウオーターが500円位、ファーストフードのハンバーガーセットが1300-1500円位するのに対して、学食の値段は安価に抑えられていた。

9.その他

ローザンヌにはホテルの数が多くなく、またホテルの値段も高く、長期の宿泊には向いていないのが残念である。FJMへはローザンヌの中心街からトラムでアクセスできるが、アーカイブからの帰りは、授業が終わったローザンヌ大学の学生の大群と遭遇し、何回か満員のトラムを見送った。帰りのトラムは要注意である。

なお、ローザンヌは言うまでもなく、国際オリンピック委員会が本拠を構え、レマン湖に面する風光明媚な観光都市でもある。夏季に訪れれば、史料館から街に戻った後、夕焼けに染まるアルプスの山を彼方に眺めながら、レマン湖湖畔を散策する時間も取れるだろう。個人的には、ヨーロッパの中でもこれほど美しい風景は滅多にないと思っていて、アーカイブワークにつかれた心と体を癒してくれるだろう(了)。


(写真:レマン湖湖畔から対岸を眺める)


(川嶋周一)

基盤研究(A)「リージョナル・コモンズの研究―地域秩序形成の東アジア=ヨーロッパ比較―」
(研究代表者:遠藤乾)