基礎法学への誘い
私たちの社会には多種多様な法が存在しており、それらは複雑に組み合わさって社会の構造を形づくっている。それらの法の個々の内容がどのようなものであるか、それはあなたがすでに中学や高校でその概略をひととおり学んだところであるし、そしてこれから北大法学研究科・法学部での専門の授業を通してより詳細に学んでゆくことになる。
ところがその一方で、あなたはこんな疑問をもったことがないだろうか。――日本の法に出てくる基本的な概念や考え方はいつから用いられるようになったのだろうか?日本と同じ問題が外国の法ではどのように解決されているのだろうか?なぜ日本と外国とでは法のあり方が違い、裁判の手続なども違うのだろうか?それらの相違はどうして生じたのだろうか?六法全書や条約集に載っているもの以外に法はないのだろうか?明確な法がないとき裁判官はどのようにして判断を下すのだろうか?どんな内容の法でも必ず従わなければならないものなのだろうか?人々は現実にどの程度まで法に従って行動しているのだろうか?そもそも、なぜ人間は社会を規律するために法というものと作り出したのだろうか?法によって社会を秩序だてることにはいったいどのような意義があるのだろうか?etc., etc.……
これらの疑問は、あなたの生活を取りまいている今の日本の法がどのような内容をもっており、どのように運用されているのかといったこととはまた異なって、むしろ法制度の根本に関わるものである。言ってみれば、日本の法制度という建築物の土台そのものに関わる問題である。建築物の外貌や設備はもちろん当の建築物を利用する多くの人にとって重要なことであるのだが、その建築物がまさにそこに立っているのは、確固とした土台がその基礎にあるからこそである。私たちはともすればこの土台の存在を忘れがちであるが、土台があってこそ建築物はその本来の機能をもつことができる。それと同様に、日本の法制度は様々な歴史的、社会的、そして思想・文化的土台のうえに作り上げられ、変容を続けているのである。
基礎法学と呼ばれる分野の種々の学問は、このような法制度の根底そのものを研究の対象としている。比較法学は、アジアや欧米の法制度のあり方を観察し、日本の法制度との比較対照を試みようとする。法史学は、日本の法制度やそれに大きな影響を与えてきた西洋の法制度の歴史的な形成過程を跡づけようとする。法社会学は、人間社会の相互行為プロセスとの関わりで法制度の意義やその動態を把握しようとする。法と経済学は、法制度とそれを支える人間の思考を経済的合理性の観点から説明しようとする。そして法哲学は、法制度の根幹をなす価値や思想のあり方を分析しようとする。これらの学問は決して相互に無関係ではない。それらは互いに重なり合いながら、法制度の基礎にあるものを探っている。北大法学 研究科・法学部に来ようとしているあなたは、先の疑問に応じてそれぞれにこれらの学問に触れ、考えをめぐらせてみてほしい。そのことによって、あなたは法の世界の奥深く、人間と社会のなかで秩序が生成し、それが法制度へと結実してくる境面へと誘われてゆくだろう。
これらの学問をあなたに提示する北大法学 研究科基礎法学講座のメインスタッフには、それぞれ日本の学界で個性的な地位をしめて活躍している有数の研究者10人が揃っている。この10人は自由闊達なコミュニケーションのもと、それぞれの領域で国の内外にわたる創造的研究を展開しながら、法の世界を複眼的に考察するパースペクティヴを北大法学研究科・法学部全体にも与え続けてきている。 そして全国的にも、10人の第1線スタッフを擁する基礎法学講座はトップクラスにあって、多くの研究者の憧憬の的ともなっている。また基礎法学講座の共通資料などを揃え 、法学研究科の学術振興支援も行っている基礎法学資料室/学術振興支援室は、これらスタッフの研究・教育活動のためのセンター的な機能を十分に果たしている。このようなスタッフによって提供される法制度の根本に迫る科目に触れることで、あなたの法の理解がいっそう深まり、北大法学研究科・法学部での勉学はより厚みを持ったものとなるはずである。