先生○人に聞きました! 判例評釈「T型」能力八宗兼学「読みこなす」・・・
      (*印の先生は2002年3月まで在任)
 
「判例評釈を探していたら、とってもたくさんありました。でも、時間が・・こんな時、どれを読んだらいいのでしょうか?」
 

 瀬川信久先生(民事法)−研究者のお立場から−
  問題点を素早く知るためには、コンパクトな判例セレクト(法学教室・別冊)、法学セミナーの判例評釈が便利です。これと比べると、重要判例解説(ジュリスト)、判例百選(別冊ジュリスト)、私法判例リマークス(法律時報・別冊)の評釈は少し詳しくなりますが、紙数と執筆様式が制限されているのでポイントは絞られています。判例評論(判例時報)、判例タイムズの評釈は、より自由で本格的です。なお、公式判例集に載った最高裁判決については、調査官による解説が必読です(法曹時報に掲載の後、『最高裁判所判例解説(民事編)』にまとめられる)。そのほか、法学協会雑誌、民商法雑誌の判例評釈に定評があります。

 登石郁朗先生*(刑事法)−裁判官のお立場から−
  最高裁判所判例集に登載された判例については、最高裁判所調査官の執筆による『最高裁判所判例解説』が必須です。まず、「法曹時報」誌に掲載された上で、年ごとに、刑事篇、民事篇に分けて出版されます。また、刑事判例評釈集(あるいは、「警察研究」誌に掲載される刑事判例研究)も定評のあるものです。これら以外は、執筆者を見て、選択するのがよいでしょう(その基準は、ある程度勉強が進むと分かるようになります。)。裁判所の考え方を理解する上では、実務家の書いたものの方がわかりやすい場合も多いようです。

 中川 明先生*(憲法) −弁護士のお立場から−
  現代のような情報社会では、判例についての解説・評釈類も沢山あり、戸惑うのも分からないわけではありませんが、これらの山の中から予め一つor二つを限定するよりも、自分が入手し目にしたものを−どれであれ−まずしっかり読みこみ、次に教科書や基本書の該当個所にあたりながら、自分の頭でその意味を再考することが大切だと思います。「なお更に」という時は、その解説・評釈が参考文献等として引用している中から選べばよく、ここでも基準は特にありません。何を読むかではなく、どのように読み自ら考え抜くかが問われているように思うのですが、どうでしょうか。
 

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 「わたし達は、法と政策にとても関心をもっています。将来は、国や地方自治体等の公的機関、また、シンクタンクのような機関で政策に関する仕事をしたいと思います。それには、雑誌等の資料の中でどんなものをどのような視野に立って読んでいったらいいでしょうか?」
 

 井川 博先生*(行政法)−元行政官のお立場から−
    公務員には幅広い知識が必要ですが、法令判例新刊雑誌室には、国の政策や自治体の活動に関するものなど種々の雑誌があります。例えば、地方自治関係では、地方自治に関する論文などが掲載されている『自治研究』のほか、少し専門的になりますが、『地方自治』や『地方財政』には、地方自治制度や自治体の行財政運営に関する新しい情報が載っています。また、『地方分権』には、地方分権改革を踏まえた自治体の新しい取り組みなどが紹介されています。これらの雑誌は、実務でも参考にされており、自治体をめざす人、地方自治に関心のある人にとって、実際の自治体の活動や地方自治制度を知る上で役に立つと思います。また、関心のある問題について、判例カードに記載されている判例や評釈などを参考にしてじっくり考えるということも大切だと思います。

 北見良嗣先生*(金融法)−元中央銀行職員のお立場から−
  近年、金融技術は急速に発展するとともに複雑化しており、これを理解するには、法律・経済だけでなく、会計・数学・英語等幅広い知識が要求されるようになってきました。このため参照文献も広がらざるをえないのですが、まず金融と法律の関係では、金融に重点を置いた雑誌として『金融法務事情』、『NBL』があります。更に、法律面にウェイトを置いて調べる場合には、勿論『ジュリスト』、『法曹時報』、各種裁判所の判例集をみます。  また、金融実務面をフォローするには、会計に関しては日本公認会計士協会編集の『JICPAジャーナル』、金融動向一般に関して『日本経済新聞』(本紙は金融関係者必読)、『日本銀行調査月報』、『週刊東洋経済』、『金融ビジネス』、英『ファイナンシャル・タイムズ』等を参照します。この他、トピカルかつ正確な情報入手のためには、各種関係機関のホームページを見ることも欠かせません。

 宮脇 淳先生(行政学)−元立法官・シンクタンク研究員のお立場から−
  国や地方自治体、シンクタンクで政策に関する仕事に携わる場合、まず必要なことはできるだけ「T型」の能力を養うことです。「T型」の能力とは、柱となる専門領域を持ちつつ一方で幅広い見識を養うことを意味します。政策の形成と遂行は、さまざまな分野に影響を与えます。政策が影響を与える領域とその震度を適切に見抜くことができなければ、政策を組み上げたり分析したりすることはできません。したがって、視野に入れるべき雑誌等の資料としては、『ジュリスト』をはじめとした法律雑誌は当然のこと、『エコノミスト』、『週刊ダイヤモンド』といったビジネス関係の雑誌にも視野を広げ、基本的な経済情勢を把握する必要があります。毎年、7月頃には、代表的なビジネス雑誌で『経済白書特集』が刊行されます。これは、経済企画庁で毎年作成する経済白書に解説を加えて分かりやすくしたものです。日本そして世界の経済と政策分析に関する基礎的知識を得るには適しています。また、『日本経済新聞』に月曜日から金曜日まで掲載されている「経済教室」は、景気から財政、政治に至るまでコンパクトに問題点を整理してくれています。とくに、シンクタンクの仕事においては、こうした経済関係の基本的な新聞や雑誌に目をとおす習慣を身につけることが求められます。なお、金融・証券系シンクタンクをめざす場合、極めて有用なのは各シンクタンクが作成している月報類に目をとおすことです。無料で配布してくれるところもありますが、最近では年間契約で有料となっている場合も多くなっています。そうした場合には、金融機関等の店頭に並んでいる経済調査関係のパンフレットが役に立ちます。こうしたパンフレットは系列のシンクタンクが作成しているため、これに目をとおすことで各シンクタンクの考え方やシンクタンクの研究員として求められる基礎的素養を把握することが可能となります。なお、こうした点は民間企業や地方自治体の企画調査部門に必要となる素養を得るためにも有用と言えます。  国会事務局に興味のある場合、あるいは政策分析の基礎的資料を得るには参議院常任委員会調査室が作成している『立法と調査』が役に立ちます。その他、国立国会図書館立法考査局の『レファレンス』では、より専門的に法案の内容や政策分析を行っています。国会事務局の仕事は外から見て分かりづらい面が多くありますが、従来に比べ積極的な情報 発信を国会事務局等が行うようになってきています。  地方自治体関係の共通した問題については、『月刊自治研』、『地方自治土曜講座ブックレット』、『Ashita』などを通じて整理することができると思います。個別の地方自治体が抱える問題については、それぞれの自治体の広報や予算パンフレット等を通じて知ることになります。
 

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 「僕は会社の法務部で仕事をしたいと思っています。大学で知識を着実に積み上げ、さらに実務の感覚も身につけてゆきたいと思います。資料室にある雑誌等の中で何をどのように読んでいったらいいでしょうか?」
 

 大塚龍児先生(商法)
  企業法務部のプロといわれる人たちは大変なもので、八宗兼学の徒でありますから、六法の一分野を研究しているに過ぎない小生にとっては、どのような雑誌をどう読んだらよいかを推薦することも無理のように思います。しかし、「隗より始めよ」といわれていますから、身近な基本的事項から始めるしかないので、思いつくままに上げてみたいと思います。  法律実務に関する雑誌としては、ご存知の「ジュリスト」や「法律時報」があります。  企業法務においては、最高裁の判例のもつ意味はなまじの学説どころではありませんが、その意味では「最高裁判所民事判例集」(いわゆる「民集」)登載の民事判例につき、最高裁調査官の解説がなされている「法曹時報」は、裁判所側から見た判決の意義、射程を理解する上で重要です。また、企業法務は裁判の動向を無視することはできませんから、その意味で裁判官等の司法関係者が執筆するところが多い「判例タイムズ」も見落とせません。  企業の組織、運営に関する会社法は、たびたび改正されますが、そのフォローには、また会社法の理解には「商事法務」が最適といえましょう。  企業にとって債権の管理、優先的回収は焦眉の問題であり、そこは金融資本と産業資本の対立の場でもありますが、主に銀行側から見てこの問題を取り扱ってきた「金融法務事情」や「銀行法務21」(「手形研究」の改題)、さらに「金融商事判例」があり、企業一般の側から見てこの問題を取り扱う「NBL」があり、それぞれ有益です(金融取引、企業取引そのものについても勿論豊富です)。  貿易取引、海外投資を志す向きには「国際商事法務」があります。  その他、労働法に関して「日本労働研究雑誌」、経済法に関して「公正取引」、無体財産権法に関して「知財管理」、税法に関して「税務弘報」などでしょうか。  さて、これらをどう読むかは難しい質問です。現在社会で問題とされている法律問題は何かということを捉える意味では都合がよいのですが、これら諸雑誌は学習参考書ではなく、一応法律学を学修し終わった人を対象としているからです。結局、これら雑誌で得られた知見を講義や教科書の一般的な体系のどこにどう組込むかを考え、また一般体系を深化、具体化する教材として活用すればよいのではないでしょうか。
 

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 「私たちは、裁判官や弁護士や検察官になりたい!・・と思っています。それには、まず司法試験に合格することが目標です。現在は資料室で『Article』に目を通していますが、他にどんな雑誌や本からどのような思考方法を身につけていったらいいでしょうか?」
 

 登石郁朗先生*(刑事訴訟法)−裁判官のお立場から−
  受験雑誌等で、最新の情報を得、対策を練ることは重要だと思います。しかし、目先の対策に追われ、受験雑誌や参考書類に、あまりとらわれることには、賛成できません。実務では、対立する利益の存在を前提に、各利益の重要性をどう整理するか、どこに解釈論としての線を引くのかという感覚が求められます(司法試験も、ここにポイントがあると思います。)。このような感覚は、すぐに模範答案が与えられるような勉強方法では、身に付かないと思います。私としては、多少遠回りでも、まず、自分のフィーリングに合った、定評のある基本書(内容的にだけでなく、本の体裁、文章の流れ等が自分に合うことが重要。尊敬できる先生のものがベスト)を、じっくりと読みこなすことを勧めます(特に、授業と併行して行うと効果的)。「読みこなす」というのは、書いていない問題でも、この著者なら、どう考えるだろうかと推測がつくくらいまで、読み込むことです。それから、関心のある分野や分かりにくい部分については、時々、実務家の書いた判例評釈や論文等を読んでみることを勧めます。身近なものでは、「判例タイムズ」や「研修」(法務総合研究所)に掲載される論文(記事)や、「最高裁判所判例解説」などがあります。

 中川 明先生*(憲法)−弁護士のお立場から−
  司法試験の受験情報誌としては他に「受験新報」や「Hi・Lawyer」がありますが、それぞれの雑誌にはそれぞれ特色があり、自分がなじみやすいと感じた一冊に目を通すだけでよいでしょう。受験情報や受験技術に通じるよりは、自分で決めた「基本書」をコツコツと繰り返し読み、自分の頭・言葉で考えるクセをつけることが大事です。そのうえで、「法学教室」や「法学セミナー」で新しい裁判例や学説・考え方を補充しながら、友人と時間を決めて議論し互いに学び合うという、あたりまえの方法を積み重ねるのが、結局は早道のように思います。

 吉田克己先生(民法)−研究者のお立場から−
  現在は、ご指摘の『Article』のほかにも、多くの受験雑誌や受験用の参考書、受験技 術のハウツー本が出版されています。これらに目を通して司法試験が何であるかを知り、 最新の情報を得ることは有益なことです。しかし、将来良き法律家を目指すためには、そ れだけでは足りません。必要なことは、現実の法的問題を前にして自分の頭で公平で最善 の解決を見出し、そしてそれがどうして最善かを人に説得する術を身につけることです。 司法試験合格のためにある程度の受験技術は当然に必要ですが、根本的には、きちんとし た法的思考を身につけることが重要です。そのためには、自分に合った基本書を繰り返し 読むこと、そしてゼミの場や友人との間での議論を積み重ねることが、遠回りのように見 えて結局は効果的です。また、新しい法的問題や判例・学説をフォローするために、『法 学教室』や『法学セミナー』などの学生向けの法律雑誌に目を通すことも有益です。前者 は、どちらかというと判例・学説の展開のフォローに、後者は、新しい法的・社会的問題 のフォローに特長があるといえるでしょう。『ジュリスト』や『法律時報』などより専門 的な雑誌を定期的に読む必要はないでしょうが、表紙に出ている特集のテーマを見ておくだけでも、最先端の問題が何であるかを知ることができます。その上で、興味のある論文に目を通すとよいと思います。さらに、新聞などで社会の動きを不断にフォローすることは、直接に受験に役に立つかどうかは別にして、将来法律家を目指す受験生にとって最低限の常識でしょう。
 

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 「中国を旅して、私は大きなカルチャー・ショックを受けました。以来、あの広大な土地がもたらす中国という国と、国をかたちづくる法と社会(特に思想)に強い関心を持つようになりました。資料室で中国関係の新聞や雑誌を見つけましたが、今のわたしには難しくてよくわかりません。日本語か英語で書かれたもう少しやさしいい資料を教えてください。比較法の研究者をめざしています。」
 

 鈴木 賢先生(中国法)
  比較法がどんな学問かを知りたいなら、まず元北大教授の木下毅先生の『比較法文化論』(有斐閣、1999年)を勧めます。それから現代中国法については、木間・鈴木・高見澤『現代中国法入門』(有斐閣、1998年)がわかりやすく、全体を鳥瞰するのに便利です。資料室にある英文の雑誌 China Quarterly には法を含めた中国社会に関する論文が掲載されています。でも、中国を本格的に勉強したいなら、できるだけ早い機会に中国語にチャレンジして、資料室にある新聞や雑誌も読めるようになって欲しいものです。
 

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 「この2〜3年の政治学に関する文献を探しています。『政治学に関する10年間の雑誌文献目録』というのを見つけましたが、内容が古くて求めているものはありません。目下ジャーナリストを志望しています。現代社会の深層をえぐり、かつ公正な報道ができる能力を身につけたいと思っています。先生はどんな風にして新しい情報を手に入れているのでしょうか?」
 

 山口二郎先生(政治学)
  政治や行政はめまぐるしく動いています。これに関する情報を集めるためには、今までのように新聞や雑誌という活字メディアを追いかけることに加えて、インターネットなど新しい媒体から情報を集めることが不可欠です。  まず、新聞、雑誌の読み方、使い方ですが、今はデータベースが充実してきて、昔のように切抜きをする苦労もなくなりました。特に新聞では、日々の記事だけではなく、署名入りの解説記事、特定のテーマに関する企画連載記事に注目する必要があります。また、新聞やテレビのニュースに現れない深層については、『エコノミスト』、『週刊ダイヤモンド』といった経済雑誌にある時局解説記事を追いかけることで、よくわかることがあります。  最近、インターネットがもたらす情報は目を見張るものがあります。日本のみならず諸外国の政府、議会、政党などのホームページを開くことによって、政策決定や政治の動きについて最新の情報がわかります。  北海道にいると中央の情勢について情報のハンディキャップがあるのではないかとよく言われますが、私の実感では決してそんなことはありません。むしろ、情報の洪水の中で流されるよりも、中央からある程度距離をおくことでかえって出来事の本質が見えてくることもあります。
 

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