経済法研究の歩み方:将来世代の法学研究者の卵のために
[1] 判例評釈を書く方法
- 判決の認定事実をまとめる。
- 冒頭の認定事実(「前提となる事実」)。
- 「審判官の判断」「当裁判所の判断」における認定事実(冒頭に掲げられるもののほか、各争点ごとの認定事実も)。
- ※ ただし、各争点にかかる認定事実は、審決理由・判決理由のところに書くまとめ方もありうる。
- 必要に応じて、審決・判決では直接言及のない事実(例:エディオン審決における別紙5の取引依存度の年度ごとの数値や順位、購入額などのデータ)も【補足】としてまとめる。
- 認定事実に関わる別紙も読む。
- 判決理由をまとめる。
- 争点ごとに、公取委・裁判所それぞれの段落分け(階層分け)に留意して。
- 基本的にコピペ。自分の言葉に置き換えず、原文のまま。ただし重要でない情報は「…」などで省略する。
- 読んだ時点で感じた疑問は、審決理由・判決理由の該当箇所にコメントとして付ける(後で評釈の原稿に使用できる)。
- 別紙に判断理由が示されている場合にはそれも読む。
- 時間があれば、「争点に係る双方の主張」「争点に関する当事者の主張」を読む。
- 時間がない場合には後回し。
- 当事者の主張について、こちらの記述の方が趣旨が分かりやすい場合には、該当箇所の審決理由・判決理由のところに追加する。
- まとめたものを一度印刷して読み通す。
- 読み直して、事実のまとめ方の再検討などをする。
- エディオン審決の場合、印刷するまでの時点で約21時間を要した(ただし、疑問点等のコメント、評釈に備えた調べ作業及び先行事例の審決理由の確認と比較検討の作業時間を含む)。
- 評釈の作成
- 認定事実及び審決理由・判決理由のうちどの部分を、原稿に書くかを決めて、原稿ファイルに入力する。
- 評釈でどの論点を取り上げるかを決める。
- 審決理由・判決理由で、説得力がある部分とそうでない部分を特定し、自分の(可能ならば建設的な)考えを表明する。
- 先行評釈を全てコピーして(PDF化して)読み、評釈のコメントで引用価値のある記述をメモする。
- 論点ごとに評釈の状況を原稿ファイルに入力する。
- 全体の論旨を一貫させて完成。
- 補足
- 判例評釈は、法学研究の最初から最後まで重要な作業。理論的な研究では気づかない論点を、初めて考えるきっかけにもなる。
- 判例評釈は誰でもできる仕事だが、膨大な情報を過不足なくまとめ、判断理由に説得力があるかどうかを分析する能力が問われるため、差はつく。
- しかしながら、判例評釈は基本的に他人の思考をたどって情報をまとめる作業であるし、担当する事件が、自分の最も知りたい研究テーマと離れている場合があるため、できるだけ時間をかけずに完了したい仕事。
- 時短のため、100頁を超える審決・判決の場合は、A4用紙1枚に2頁印刷すると、速く読める気がする。
- 評釈は自分の考えが定まってから読むようにしている。それは、自分の頭で考える時間をできるだけ長く確保したいから。
- 他人の評釈を読むのは、自分の読み誤りや読み落としを防ぐためにも必要。
- 事件ごとに一つのファイルを作成し、全ての審級、関連評釈まで含まれたものを作成する。
[2] 研究論文の書き方
- 研究テーマを特定する。
- 経済法の中で、各種の概説書や判決、審決、ガイドラインで書かれている記述について、説明に納得がいかない、腑に落ちない、理解に不安がある分野を全て書き上げる。
- そのうち、特に、知りたい、なぜそうなっているのか理解したいという思いが強いテーマに絞り込む。一つに絞り込める場合には、それを研究テーマとして先行研究の調査を開始する。
- 研究テーマを一つに絞り込めない場合には、経済法の教員に、どのテーマが良さそうか相談する。
- なお、当初は全く関心のないテーマであっても、評釈や解説を依頼されたことをきっかけに、当該テーマへの問題関心が高まる場合もある。若い頃は自分の専門分野であっても、知識が不足している領域が必ずあるので、このような機会を有効活用して知識の穴をつぶしていくとよい。
- 先行研究を調査し、研究テーマの重要性を確認する。
- 研究テーマに関する日本語の文献をまず調査し、自分の疑問が解消できるか検討する。ここで疑問が解消できるものは研究テーマにならない。
- 先行研究を調査したけれども自分の疑問が解消できない場合、それがさらなる研究が必要であるほどの重要な問題であることを、経済法の教員に確認をとる。
- 自分の問いに対する答えを探す研究は長い時間を要するため、当該分野の比較法文献や先行研究を読むのが楽しくなければ、長続きしない。それだけ知りたい欲求が強いかどうか(自分にとっても重要な研究テーマであるか、自分の知的好奇心を強く満たせるか)は、予め確認しておく。
- 論文の執筆にとりかかるまでの文献調査や分析は、とても地道な作業であり、これが毎日長期間にわたって続く。地味な作業を毎日続けることが苦にならないかどうかが全て。
- 自分の問いに対する答えを探す。
- 比較法研究、他分野の先行研究に答えを見いだす。
- 最初のうちは、自分が求める答えに関連する情報がどこにあるのかが全く分からないので、検索しただけで終わる日々が続く。
- 1-2週間調べても関連する情報が出てこなければ、そのアプローチでは答えにたどりつけないということ。別の方法や切り口を探す。
- 最終的には経済学等の他分野の先行研究に答えを見いだすとしても、まずは比較法研究から始める方が取り組みやすい。
- 自分の問いに対する答えが見つかれば論文になる。
- もやもやしてよく分からなかった分野に、情報を綺麗に整理できる道筋(概念や分類基軸等)が見えているのが、自分の問いに対する答えが見つかった状態。
- 一つ答えが見つかると、他の考え方もあるかもしれないと不安になる。どこで調査を終えて原稿執筆にとりかかるかは、締め切りまでの時間と、調査対象文献の膨大さ、見つかった答えだけでまとまった論文になるかどうか、で決まる。
- まずは2万字の論文を目指す。
- 自分の疑問について、これまでの国内法研究では解答が不十分であるが、比較法研究や他分野の研究を通じて、自分が納得できる(説得力があると思える)答えが見つかった、というのが論文のエッセンス。
- 論文完成に至るまでには、調査・分析作業を通じて、できるだけ多くの新たな知的発見があることが望ましい。
- 「なるほど、こういうことだったのか。」「こう理解すれば綺麗に説明できる。」といった知的発見は、それを基にして、さらなる新たな分析や考え方の提案を可能にすることがある。
- 論文完成後の作業。
- 今回の論文では時間がないために取り組まなかったが、気になる作業を将来の調査対象候補としてメモしておく。
- 読み込んだ資料は、書物を除き、基本的には処分する。特に重要な論文をPDFで残すくらい(残してもおそらくもう読まない)。
- そういう意味では、研究論文を書くのは、先行研究を紙ゴミに変える作業。
2026.08.03作成
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