ノンフィクション《誤字等》が現れた

(2002.01.22開設/2002.03.12更新)


[参照]『答案誤字辞典・私家版』(熊本大学・木下和朗先生)

〈いつものフンソウ〉
 答案を採点していると必ずと言っていいほど見かける常連が、「コナソウ」です。粉争ではなくて、紛争が正解です。とくに今回は頻出していた印象があります。コメが好きな人は多いようで(?)、粋内とか粋組というのもありました。正しくは枠内・枠組。

〈同時多発テロの影響〉
 同時多発テロ(自暴テロではなくて自爆テロです)の影響か、 報服も多く見られました。正解は報復です(報複と書いている人もいました)。ちなみに、裁判官が着ているのは法服です。小泉首相は 相理大臣ではありません。ブッシュ氏は代統領 ではありません。
 他にも軍事的(軍時的ではありません)な誤字(?)はいろいろありました。 功撃は攻撃、武力行史は武力行使、 武隊は部隊、捕慮は捕虜、 固別的自衛権は個別的自衛権の間違いでしょう。軍事要員を軍事要因 と書くと意味が違ってしまいます。自衛隊の海外出勤ではなくて、自衛隊としては海外出動でしょう。 安全保証ではなくて安全保障です。保証と保障の使い分けに注意しましょう。なお、保証・保障と補償の使い分けも重要です。

〈ヘンとツクリの微妙な関係〉
 戦いに敗北するのは財戦ではありません。この「敗」と「財」のように、偏または旁 (つくり)を取り違えて別な漢字を書いてしまうというのは、よくある誤字のパターンですが、熟語の両方の漢字が間違っているとなると、読む方も少し想像力を要求されます。低解は、前後の文脈からみて「抵触」のことらしいと分かりました(低触抵解と書いている人も複数いました)。
 指敵 指適 も散見された、ということも指摘しておきましょう。撤底的 不撤底も見られました。いずれも正しくは「徹」の字を書きます。

〈義か議か、それが問題だ〉
 ゴンベンの有無というのも、間違いの名所(?)かもしれません。同じ人が、評義会 および協義 という間違いをしていました。申し立てるのは 異義ではなくて異議です(「異義」とは、「意味が違う」ということ。例えば、「同音異義語」など)。逆に、 意議ではなくて意義であり、講議ではなくて講義です。1つの言葉が多くの意味(=義)を持っている、ということですから、 多議的ではなくて多義的です。定義を定議 と書いている人も複数いました(複数の「複」はコロモヘンです。シメスヘンではありません。 復数 でもありません)。

〈ちょっと似ていて・・・〉
 「徐々に」を除々にと書いている人も多く見られました。 住々にしてではなくて、「往々にして」でしょう。似ている文字と勘違いして覚えているのでしょうか。 派遺ではなくて派遣です。遺感ではなくて遺憾です。 批準ではなくて批准です。文脈から見て、把手ではなくて握手でしょう。 服徒ではなくて服従です。余地を途地、賛成を 替成となると、あまり似ていない気がします。不器用を下器用 と書かれると、ちょっと悩んでしまいます。形は似ていますが・・・。
 言行不一到 ではなくて言行不一致。不可態 の意味は理解不可能。提態ではなくて提携(見かけはあまり似ていないと思いますが)。
 「前提」を前是と書くのは手抜きでしょう。

〈ところで、その意味は?〉
 漢字は表意文字ですから、意味を考えれば、自分の書いた字ではおかしいということに気づく場合も少なくないはずです。軽く見るから軽視なのであって、 経視ではありません。秩序と字の形は似ているかもしれませんが、秋序 というのはどういう意味でしょう? 略奮ではなくて、奪うのだから略奪です。他の国というつもりなら、 多国ではなくて他国でしょう。他数も多数が正解でしょう。
 スピードが速いわけではなくて、時間的に急いでいるのですから、 速急ではなくて早急です。「速」と「早」の使い分けに注意しましょう。「群」と「郡」の使い分けも、しばしば間違いの名所となります。 一郡のとか商品郡というのは間違いです(ちなみに、国家群を 国家軍と書いていた人もいました)。
 小子化 では、子どもが小さくなってしまいます。子どもが少なくなるから少子化なのです。もっとも大きいから最大規模であって再大規模 ではありません。逆に、再び創造するのなら 最創造ではないでしょう。しかし、創造に「再び」はあるのでしょうか? 票を投ずるから投票なのであって、投標では乱暴でしょう。事に当たる者だから当事者なのであって、当時者ではありません。陣情ではなくて陳情、需容ではなくて需要(ちなみに需重と書いた人もいました)、 租国ではなくて祖国、非離ではなくて非難でしょう。順を追って少しずつ進むのですから、漸新的ではなくて漸進的です。
 借置ではなくて措置です。借りてはいけません。集展ではなくて進展です。集めてはいけません。しかも、どちらも読み方さえ違っています。幻(まぼろし)を見るから幻覚なのであって、幼覚ではありません。不可ケツは欠くことができないのであって、不可決 ではありません。無盾と書いている人がいました。矛(ほこ)と盾(たて)があってはじめて矛盾するわけで、盾が無ければ問題は生じないはずです。
 「制」と「性」を取り違えるというのは、ワープロ/パソコンの変換ミスでしばしば発生しますが、手書きで間違えていると、「言葉の意味が分かっていないのではないか?」と心配になります。 大統領性とか二院性とか。
 自由一場と書いている人がいました。繰り返して書いていますから、一時の書き間違いではなさそうです。以前に「自由市場」をジユウイチバと読み、さらに誤って記憶したのでしょうか。それにしても、自由一場とはどういう意味なのでしょう?

〈怖いのは「書いたつもり」と「書いたはず」〉
 「専」は右肩にテンがありませんが、「博」はテンがつきます。ところで、「専ら」って読めますよね?
 遵守をジュンシュと読めない人は少なくありません。法律学ではしばしば出てくる言葉ですから、ゼミで「ソンシュ」などと言って恥ずかしい思いをしないようにしましょう。読み方を間違えて覚えていたせいか、答案に 尊守と書いている人もいました。逆に、遵敬 というのもありました。文脈からみて、「尊敬」のことだろうと思うのですが。また、尊徴 と書いてあるのは、「尊重」のつもりなのでしょう。
 非確的自由に、というのは何か新しい哲学的概念なのかと思いましたが、「比較的自由に」と書いたつもりだったのかもしれません。元の形、という気持ちは分からなくもありませんが、 元形ではなくて原形です。

〈ときには独創性も困りもの〉
 独創的な新字を開発する人も少なくありません。ここで再現してお見せするのは諦めますが、例えば、「疑」の左右を逆に書いている人がいました。しかも、左側から右下にかけて繞 (にょう: シンニョウとかエンニョウとか、ありますよね)のようなデザイン(?) になっているところが泣かせます。また、なにか違和感を感じるなぁと思ったら、「即」の左側が貝ヘンになっていたり、「控」がコザトヘンになっていたり、「渡」がシンニョウになっていたりしました。執行の「執」の偏は「幸」であって「辛」ではありません(ちなみに、執行を 報行と書いていた人もいました)。「際」と書いたつもりなのでしょうが、旁が「祭」ではなくて「察」になっていたり。要請や請求の「請」の旁が「責」になっている例もありました。付託や委託の「託」の旁は「屯」ではありません。

〈周囲の影響、でしょうか・・・〉
 前後の文脈に引きずられてしまう、というタイプの誤記も割とあるようです。「同要の要件」は「同様」の間違いというのは比較的単純なパターンでしょう。「死刑の廃死」が「廃止」の誤りであることも分かりやすいでしょう。「永住権を申請する場合には短期間で 住む」というのは、やはり「済む」が正解でしょう。「空弾 にクラスター爆弾を使ったことを糾弾し」というのは、「空爆」でしょう。

〈誤字という以前に
 備えているいって、肯定なのですか、否定なのですか?
 数字の「9」が平仮名の「の」に見える例が散見されます。19の3年 とは何だろうと思ったら、1993年でした。8の条は89条でした。「9」は正しい書き順でお願いします。 けつ3人分でなかったというのは、ちょっと驚き、悩みました。しばらくして、「けつろんがでなかった(結論が出なかった)」と書いてあるのだと分かりました。


〈その他の誤字等〉「法学」の答案に出現した誤字等(カッコ内が正解です・試験は「持ち込み可」でした)

指適(指摘)  愛地(愛媛)  要困(要因)  違判(違反)  過郵(過剰)
義礼(儀礼)  自実(事実)  詰論(結論)  信抑(信仰)  法延(法廷)
発刑(発刊)  列刑(死刑)  誘或(誘惑)  腐廃(腐敗)  違論(異論)
本伴(本件)  幣害(弊害)  利立(私立)  回複(回復)  例害(例外)
照点(焦点)  法立(法律)  相方(双方)  報州(報酬)  揚載(掲載)
無郊(無効)  尊守(遵守)  損憲(損害)  内案(内容)  徴細(微細)
韋反(違反)  虐行(虐待)  接解(接触)  致着(到着)  致達(到達)
比評(批評)  服恩(報恩)  緩助(援助)  邪摩(邪魔)  半例(判例)
優偶(優遇)  穏微(隠微)  事能(事態)  脅追(脅迫)  成大(盛大)
訴公(訴訟)  雑紙(雑誌)  表価(評価)  販訴(敗訴)  事行(執行
地鎖祭(地鎮祭)  主帝者(主宰者)  通欲的(通俗的)  世欲的(世俗的)
不可決(不可欠)  欠しい(乏しい)  中性立(中立性)  玉患料(玉串料)
進行系(進行係)  統一制(統一性)  起己式(起工式)  比較衡重(衡量)
律市(三重県の 津市)  社会通年(社会通念)  宗教的感心(関心)
名誉毀捐/捐失/捐害賠償 (毀損/損失/損害)← 3つとも同じ人/捐害と書いた人がもう1人
お思う(思う)← 同一の答案の中に3回出現しました   たどりつくまでの課程(過程)
事前規定(事前規制)  正教分離(政教分離)   その性質状(その性質上)
損害を破る(被る)   基準に治って(沿って)  表理の自由(表現の自由)
測している(則している)  正めている(定めている)  絶体的禁止(絶対的)
余議なくされた(余儀)  持らった(もらった)

意識ずけてしまう

[参考]過去に出会した誤字等
    ※これらはすべて「持ち込み可」の試験または課題レポートにおいて出現したものです。

判令(判例)  訴訂(訴訟)  争訴(争訟)  勝裁(勝訴)
審制(審査)  憲査(審査)  賠賞(賠償)  補賞(補償)
的用(適用)  公興(公共)  私憲(私権)  損実(損失)
変便(変更)  極単(極端)  粉争(紛争)  情執(情報)
廃上(廃止)  変行(変更)  強勢(強制)  部所(部署)
熟心(熱心)  剣導(剣道)  成積(成績)  出張(主張)
幕大(莫大)  撤払(撤去)  犠生(犠牲)  問句(文句)
分理(分離)  不理(不利)  監賞(鑑賞)  底度(程度)
復雑(複雑)  決果(結果)  輸快(愉快)  最定(最低)
意考(意向)  次項(事項)  想談(相談)  真撃(真摯)  暴路(暴露)
承諸(承諾)  漠大(莫大)  回腹(回復)  真近(間近)  凝問(疑問)
病員(病院)  即に(既に)  体度(態度)  復雑(複雑)  独心(独身)
不担(負担)  講図(構図)  再方(双方)  法津(法律)  困乱(混乱)
様態(容態)  純砕(純粋)  乾部(幹部)  意謝(意識)  墾願(懇願)
必至で(必死で)  至第に(次第に)  起える(越える)
抽像的(抽象的)  前面的(全面的)  不可決(不可欠)
最判官(裁判官)  起行式(起工式)  日養品(日用品)
低抗(抵抗)  一周期(一周忌)  側する(即する)  お知えた(教えた)
例れた(倒れた)  不可態(不可能)  有意議(有意義)  休力的(体力的)
親頼関係(信頼関係)  廷命治療(延命治療)  単絡的/短楽的(短絡的)
違法審査(違憲)  違憲審法(審査)  公序良欲(公序良俗)
本状の列挙(本条)  相続の対称(対象)  岡人県(岡山)
規程されている(規定)  政教分離規程(規定)  最高法規制(性)
不通の裁判所(普通)  北海ジャーナル(北方ジャーナル)
登録を澄ませ(済ませ)  欠して〜できない(決して)  愛情も伺えます(窺えます)
多目にみて下さい(大目)  〜にも関わらず(拘わらず)  恐ってくる(襲ってくる)
最期を向かえる(迎える)  最後を迎える(最期)
〜というもの事態(自体)  自体は急激に変化した/せっぱ詰まったような自体(事態)
〜せざるおえない(〜せざるをえない)
一線を異なる(一線を画する)

 


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〈齊藤正彰@北星学園大学〉