北海道大学大学院法学研究科・研究推進ボードとは、米国の法科大学院で広く展開されてきた学生によるロー・レヴュー等の編集方式を参考にしながら、北大法学研究科の大学院生、若手研究者の自律的で実践的研究推進能力の養成を図ることを目的とした組織です。研究推進ボードは、平成17年「魅力ある大学院教育」イニシアティヴ・教育プログラムの支援を受けて、平成17年11月に結成されました。われわれ研究推進ボード・メンバーは、法学研究科所属の大学院生の中から競争的に選抜されたものからなっており、活動としては、以下のようなことを予定しています。
法学研究科大学院生の中から広く研究プロジェクト案の提出を求め、発展可能性のあるプロジェクトを選抜し、その推進を助ける。
採択されたプロジェクトを通して、「研究推進ボード」のイニシアティヴにより、講演会、研究会、若手研究者同士の研究情報交換のためのワークショップ、討論会を計画、組織、実行する。また、国内外から大学院生を招聘して研究会・親睦会を開催し、院生レベルでのネットワークを組織する。
とりわけ研究科内での共通性が高く、社会的重要性の顕著なテーマに関しては、学内外から、また国外からも先端的な研究者を招聘してシンポジウムを実施する。
4  研究推進ボードは、国際的共同研究や学術誌編集の経験を持つ教員および外部専門家によって構成される「支援専門家ボード」の指導、助言を適宜求めつつ、ニューズレターや雑誌を発行する。また、こうした活動に留まらずに、推進ボードが主体となって、研究書や翻訳書の出版を手掛ける。
5  大学院生と企業・行政・メディアとの共同研究プロジェクト、シンポジウムを開催して、大学院生が一般社会に貢献できる道を開拓する。
大学外でプロジェクトオフィスの設置・管理・運営を院生の手で行い、将来多角的研究者となるための訓練を行う。
海外で行われている国際会議等に参加することによって、国際会議の運営、進行等のノウハウを学習し、それらを研究推進ボードで行われる国際シンポジウムの開催に積極的に取り入れることにより、国際的に通用するような、より魅力のあるシンポジウム開催を目指す。また、海外の学会およびシンポジウムへの 発表参加を金銭的に支援する。その場合には、どのような会議にどれぐらいの人数をどのような形で参加させるかを、ボード・メンバーが独自に決定する。
このような活動を推進するために、すでにこのような活動を行っている米国の法科大学院等を訪問し、そのノウハウを得る視察を行う。
以上の活動を通して、北海道大学法学研究科大学院生のひとりひとりが、論文作成などにおいてより良い成果を出せるような研究推進環境を提供する。

研究推進ボードは、以上述べたような、研究会の主催・大学院生の交流といった活動を通して、北海道大学大学院法学研究科の研究環境をよりクリエイティブなものにしていこうと考えています。研究推進ボードの活動の持つ意味は、専門分化が進行している近年の研究大学院の傾向を踏まえれば、大きな意味をもつといえるでしょう。すなわち、研究者の卵にとって、自分の専門分野において同じ問題意識を共有する研究者や院生と直接議論するという機会を持つことはとても重 要なことと思われますが、そうした研究者や院生は何も同じ大学に属するとは限らず、それどころか、たいていの場合はほかの大学、しかも本州の大学や諸外国の研究機関に所属していたりするわけです。そうした場合において、自分ひとりの力で、人的なつながりを構築していくことは困難です。現在においては、同じ分野の大学院生同士の交流は、学会などに付随する形でしかできていないのが実態なのです。

研究推進ボードは、イニシアティブ資金を活用することによって、自分の研究に関係する若手研究者や大学院生、さらには隣接分野の研究者を招聘することを可能にします。具体的には、大学院生を国内外から招聘して研究会・親睦会を開催し、院生レベルでのネットワークを組織します。しかも、シンポジウムの開催に関する希望・要望については、北海道大学大学院法学研究科の大学院生に絶えず開かれており、例えば、時事的な論点についての研究者の招聘、あるいは、関心のある主題についての第一線研究者の招聘についても、即座に行うことが可能であるわけです。こうした活動は年に何度も行われますし、研究会終了後もメーリ ングリストを作るなどして、絶えず情報を交換することを可能にします。そして法律学や政治学の狭い専門分野に捉われることなく、幅広い領域からの研究者集団を構築することを予定しています。以上のような活動を行うことにより、われわれが将来に研究者として活動する際に必要とされるであろう、幅の広い人的なつながりを得ることを可能とし、また、より複眼的な思考ができるような研究者になることを可能とするわけです。

また、研究推進ボードが、研究会の企画、論文の公募、応募論文の査読、採択の可否といった編集作業の全てを担当します。そして、当然のことながら、企画、編集、出版社との交渉についても、ボード・メンバーが全て行います。これらの作業を、すべてわれわれ研究推進ボードが自ら行うことは、大変魅力的な試みであるように思います。なぜなら、このような活動を大学院生自身が行うこと自体、日本においてはまだ例がないからです。これらの仕事で苦労することもありますが、この経験は、将来に研究者となって、自ら主体的に新たなプロジジェクトを立ち上げようとするときの糧となるように思います。

そして、若手の研究者の卵に、論文の研究報告や判例評釈を公表する機会を与えることについても、大きな意味を持ちえます。既に述べたように、北海道大学法 学研究科・研究推進ボードが行うプロジェクトの全面的なバックアップを受けることによって、自分の関心ある研究テーマに関連するような第一線の研究者を招聘して、適切なアドバイスを受けた上で論文を作成し、しかも、作成された論文を公表する機会を即座に得られるわけですから、それは、このうえなく魅力的な研究環境であるといえるように思います。以上のように、研究推進ボードの活動は、北海道大学法学研究科だけにとどまらず、日本の法学政治学教育全般においても、新たな独自な試みと位置付けられるでしょう。