FEATURES OF THE STUDIES
研究会の特徴

私たち、東アジア経済法研究グループは、1990年代の中頃より、北海道の札幌・小樽の競争法の研究者を中心に、小さなグループとして東アジア経済法の研究を行ってきました。はじめは、今井弘道教授を中心とする北海道大学の東アジアの法思想と法文化を比較する研究グループに、サブグループとして参加しました。それは直接には共倒れにならず、研究費を確実に確保するための戦略でした。しかし、私たち経済法研究者が今井教授の研究グループの一部に、経済法班として加わったことが、偶然にも、私たち東アジア経済法研究を方向づけ、特徴づけることになりました。
 私たちの東アジア経済法研究会の特徴的な3点を挙げさせていただきます。

(1) 法思想・比較法文化論という幅の広い研究課題の中に、東アジア経済法の課題という具体的な課題をもちこんで、相互に共振しながら研究していること。
(2) 韓国、中国、台湾など東アジアの研究者との共同研究で行っていること。
(3) 競争法(独禁法)の比較研究から開始して、FTAsにおける競争法の研究、東アジア共同体構想における経済法の研究に至っていること。

競争法は、経済や社会の現状を一定方向に直接に誘導するものではなく、市場機構が有効に機能することを重視して、その機能を阻害する行為を規制するものです。それによって、長期的に見て、経済や社会を健全な方向に誘導しているといえるでしょう。カルテル・談合は、如何なる理由や背景があっても、市場機構を阻害する許容し得ない行為であるとされ、違法性の判断において、違法行為の背景事情を知る必要性はないものとされます。一般的に言えば、東アジアの経済の非競争的な実態と事業に関与する人々の競争制限的な慣行がその歴史と文化にどれほど深く根ざしていても、それは競争法の関心対象ではないということになります。それは競争法の判断として正当であり、どのような理由があっても、問題の解決のために安易に談合・カルテルや輸入制限など競争制限に訴えることは許されるべきではありません。

しかし、競争法は問題の代替的な解決策を提示するものではありません。地方の産業振興と雇用確保、地方の伝統的なコミュニティの回復、食料安全保障や環境の維持という課題について、競争政策に抵触しないかたちで、競争法とは独自に、新たな代替的な案が求められなければなりません。

このことから、今井弘道教授、鈴木賢教授、岡克彦教授を中心とする東アジアの比較法と法思想の研究者によって法思想、比較法文化論として取り上げられる課題に、我々の経済法の研究が適切な接点を見いだすことが必要になります。経済法の関心を東アジアFTAの課題へ拡大することで、ハイテク製品を輸出する産業、国際競争力のない中小企業や国内農業、そして人々の労働・技能の市場が関心の対象となり、歴史と文化と伝統が視野に入ってきます。東アジア自由貿易協定(FTAs)、さらには東アジア経済共同体は、東アジア各国の国内の経済構造の調整を余儀なくさせるでしょう。そのような構造調整が、いかなる抵抗に遭遇し、それがいかなる政治的な支持を獲得してゆくのか。それは東アジアの歴史、文化、政治、事業慣行の有り様にかかわっています。FTAと経済統合に対する国内摩擦は、既得権を死守して改革に反対するだけの抵抗から、何らかの積極的な意義をもつ抵抗まで、いろいろありうるでしょう。東アジア経済法研究は、このような対象を研究することにより、開放的で自由な市場をもった東アジア地域と、伝統の文化を擁護し都市と自然の良好な環境を育む、市場原理からの安息地とが共存する東アジア地域の将来を展望する深い研究になることが予感されます。
稗貫 俊文