第2回海外遠征プログラム
Wisconsin Law School および Harvard Law School 視察
(March 1-11, 2006)
 
<アメリカ遠征報告>
大島 梨沙      

 

 2006年3月1日から11日まで、研究推進ボードのメンバー4人が、ウィスコンシン大学ロースクールとハーバード大学ロースクールを訪問した。その1番の目的は、我々「研究推進ボード」のモデルとなった、アメリカの「エディトリアルボード」(学生主導で法学雑誌を編集・発行する組織)のメンバーにインタビューをすることである(目的1)。発足して間もない我々にとって、アメリカで長年維持されてきている「エディトリアルボード」の運営方法や仕事内容を見聞することは、今後の我々の活動に有益であると思われるためである。また、この機会を利用して、アメリカの大学の施設を見学したり(目的2)、各人の専門的関心からアメリカの学生たちと意見交換をしたり、アメリカに留学してきている学生たちから留学の体験を聞く(目的3)ことも、我々にとって重要な遠征の目的であった。そこで、以下では、我々の訪米の目的別にその成果を紹介することとする。

 

1 「エディトリアルボード」メンバーへのインタビュー


(1)ウィスコンシン大学ロースクール

 “Wisconsin International Law Journal(略してWILJ)”を編集・発行しているエディトリアルボードのエグゼクティブメンバー4人に会うことができた。WILJのエディトリアルボードは、約70人構成で、エグゼクティブメンバー6人(年によって人数は変化する)がその統率をしている。最終的な権限は、編集長(Editor-in-Chief)にあり、最終的な決定は彼女が下しているとのことであった。授業との両立、ブルーブッキングと呼ばれる編集作業、ボードの運営などは、やはり大変であり、みな工夫・努力してやっているようであった。シンポジウムのゲストは、ボードメンバーが教授らに依頼して、その助けを借りて呼んでくるとのことであり、また金銭的なことについては、スポンサーがいる(学生達が探す)とのことであった。学生主導で活動し、ボードを運営していくことの大変さはどこも変わらないのだと感じたが、すべてを学生がやっているわけではなく、学生たちによる活動を後押しする体制が整っているとの印象を受けた。

           

 

(2)ハーバード大学ロースクール

 “Harvard International Law Journal(略してHILJ)”を編集・発行しているエディトリアルボードの編集長(Editor-in-Chief)2人と面会することができた。WILJと違って、HILJは、エディトリアルボードのメンバーが約120人いるという大所帯である。メンバーの数が多いのは、ボードメンバーになるために特に試験に通る必要がないからであり、ボランティアでメンバーになるとのことである。ただ、エグゼクティブメンバーは前エグゼクティブメンバーによる会議で選ばれる。各種役職に2人いる(編集長も2人いる)理由は、お互いの意見を採り入れることによって、扱うテーマなどの幅を広げることができることにあるとのことだった。仕事内容によって細かく責任者が分けられた組織編制で、役割分担がうまくいっているからか、ボードの運営に関する困難については、特に感じていない様子であった。HILJにおいても、シンポジウムのゲストは教授の助けを借りて、教授とコネのある人を呼んでくるとのことであり、金銭面については、スポンサーがいるとのことであった

 

2 キャンパス・施設の見学


(1)ウィスコンシン大学ロースクール


 @ ロースクール棟

  ロースクールの建物は、増築を繰り返したそうで複雑な構造になっていたが、清潔で落ち着いている印象であった。1階には、学生達がくつろげる丸テーブルとイス、ソファーなどがある天井の高いロビーがあり、学生達は、パソコンを打ったり、本を読むなど、皆めいめいに過ごしていた。

             

 

 A ロースクール図書館

 図書館は、モダンなデザインで天井が高く、開放的な雰囲気で、学生達は真剣に勉強していた。書庫の中には、鍵をかけることのできるカバーつきの机があったが、それらは、研究者を目指している学生1人1人に割り当てられているとのことであった。つまり、研究者を目指している学生に与えられているスペースは書庫の中の机1つ分だけであるということであり、研究室が与えられている我々北海道大学法学研究科の院生は恵まれているのだということに気づかされた。

 

 B キャンパス

 ウィスコンシン大学のあるマディソンの町と大学がうまく融合しており、町を歩いていて気がつけば大学の中に入っているといった感じであった。大学内の建物は皆美しく、特に、広大な湖を見晴らすことができるMemorial Union(北大でいうクラーク会館のような学生の憩いの場となっている建物)は素晴らしかった。

 

 

(2)ハーバード大学ロースクール


 @ ロースクール棟

 ロースクールの建物は1棟だけでなく、数棟に分かれている。教室が入っている建物のロビーに、ロースクールの教授1人1人の写真が掲げてあったのが印象的であった。教室は、半円形で段差があり、大きさは小さめで、教授と学生達との距離が近いと感じた。

 A ロースクール図書館

 非常に広くて美しい図書館であった。最上階は天井が高く開放的で、ソファーも置いてあり、勉強の合間に休憩することができるようにしてあった(さらに、書庫へとつながる廊下には、仮眠をとることができる大型のクッションも置いてあった)。蔵書は豊富で、北大法学論集も置かれていた。パソコンを持ち込んで本を何冊か広げながら、真剣に勉強している人が多かった。

       

 

 B キャンパス

 美しい歴史的な建物が立ち並んでおり、緑も多く、素晴らしいキャンパスであった。近くに飲食店も多く、知的な雰囲気が町にあふれており、充実した学生生活が過ごせそうであると感じた。

 

3 学生達との交流


(1)ウィスコンシン大学ロースクール


 @ セミナーへの参加

 ウィスコンシン大学では、2つのセミナーに参加することができた。
 まず1つは、LLM(Master of Laws)とSJD(Juridical Science Doctor)の学生達(修士・博士の違いはあるが、いずれも研究に専念している学生達、多くが留学生)が参加しているもので、そのうちの1人が、自己の研究経過・成果を発表するというものである。我々が参加した回は、台湾からの留学生であるLLMのChung-Lin Chenさんが”Understanding and Constructing Privacy Rights from the Perspective of Property/Non-property”をテーマに報告をされた。我々との交流の時間をとってくださったために、通常のセミナーよりも短いものであったようであるが、報告者の報告の後、3人ほどの学生から質問が出され、質疑応答がされていた。教員は司会の役回りであり議論が学生中心である点、自らの研究分野にかかわらず研究を行っている学生たちが一同に会して議論している点は、北海道大学法学研究科のセミナーにはないものであると感じた。
 2つ目は、”Legal Issues Between North America and East Asia”というロースクールのセミナー(したがって、LLMやSJDの学生のみならず、ロースクール生(JD, Juris Doctor)も出席している)である。我々が参加した回は、フロリダ州立大学からゲストとして迎えられたTahirih Lee教授が”Judicial Review in China: Is There Any Hope?”をテーマにお話をされ、その後質疑応答をするというものであった。


 A 食事会での交流

 3月2日のランチ及びディナーは、東アジア法研究センターのSusan Katcher先生が設定してくださり、その場には、上記セミナーの参加者以外にも、MLI(Master of Legal Institutions、自己の研究以外に授業など定められたコースをとる必要がある点でLLMと違う)の学生など多くの方々が集まってくださった。その多くは留学生であり、ウィスコンシン大学ロースクールの研究環境や、大学生活、専門に関連する話などを聞くことができた。

      

 

 B 「会話の会」での交流

 「会話の会」とは、日本語を勉強しているウィスコンシン大学の学生と、現地の日本人(多くは日本人留学生)とが、日本語で会話をするというinformalな集まりで、定期的に大学のカフェテリアなどで開催されているものである。この「会話の会」には、ロースクールの学生だけでなく、教養課程の学生(under-graduate students)や他のgraduate schoolの学生らも参加しており、彼らの話を聞くことを通して、日本における「学部−大学院」とは違うアメリカの高等教育システムを実感することができた。


(2)ハーバード大学ロースクール

 SJDの学生(アジアからの留学生)4人と我々研究推進ボードメンバー2人が、法学研究方法論について意見交換する機会をもつことができた。主に議論となったのは、アジアからの留学生がアメリカにおいて法学研究をする意味・本国に帰ってどういう貢献をするかという問題であり、今までの我々の比較法中心の法学研究のあり方やその意義を再検討するよいきっかけとなった。

 

4 終わりに

 今回の訪米による1番の収穫は、(研究推進ボードの位置づけを含め)北海道大学大学院法学研究科の研究環境・研究方法を相対化することができたことにある。この経験を、2006年度の研究推進ボード活動における、北海道大学法学研究科の大学院生にとって有益な企画の発案・実現に活かしたいと考えている。