科学研究費基盤研究(A)市場環境・生活環境の秩序形成における公私の協働―≪公共圏≫の実定法学的構造 北海道大学

■代表者挨拶・趣旨説明

研究代表者
吉田克己(北海道大学大学院法学研究科教授)

 公私の峻別を前提とした伝統的実定法学パラダイムは、現代社会の変容のなかで急速にその事態適合性を失いつつあります。科学研究費(基盤A)を得て実施される本研究は、そのような問題性が顕著に現れている市場環境と生活環境の2つの領域を対象としながら、これらの領域におけるあるべき秩序形成を目指し、そのために公私の協働を可能にする新たな実定法学パラダイム構築に取り組みます。具体的には、次の2つの課題を追求します。

 第1に、市場環境と生活環境において、伝統的実定法学パラダイムがなにゆえ事態適合性を失っているかという問題の理論的解明を目指します。これらの領域は、特定の市民の利益にかかわる法的空間ではありますが、それだけではありません。これらの領域は、同時に、不特定多数の市民の利益(公共的利益)にもかかわるのです。それゆえ、ここでは公私がクロスオーバーすることになります。このような法的空間を、私たちは《公共圏》と呼ぶことにします。伝統的実定法学パラダイムが事態適合性を喪失している根底には、このような事情があることを見逃してはなりません。この《公共圏》は、歴史的にどのように形成されてきたのでしょうか。また、それは、法的観点からみた現代の社会構造において、どのような位置を占めるのでしょうか。これらの論点について、本研究において一定の理論仮説を示したいと思っています。

 第2に、市場環境と生活環境を対象にして、これらの領域において公私の協働を可能にする新たな実定法学パラダイムの構築を目指します。中心的な問題領域は、民法学でしょう。市場環境に関する鶴岡灯油訴訟や、生活環境にかかわる近時の国立景観訴訟は、民法学に重大な理論的課題を提示したといわなければなりません。これらの訴訟において問題になったのは、価格カルテルの抑止や居住環境(景観)の確保という公共的利益と捉えるべきです。しかし、伝統的民法学は、私的な利益と権利とを基本的パラダイムとするがゆえに、この新たな事態に適合的な理論を提示しえていないのです。被侵害利益の公共性を踏まえた不法行為の要件論(損害論など)や違法行為に対する救済論(差止論)の再構築が求められています。また、競争秩序に違反する法律行為の効力という観点から、公序良俗論も重要な検討課題となります。問題の現代的展開は、さらに、民法学以外の実定法学にも新たな理論的課題を突きつけています。行政法学においては私人の役割論や原告適格論の再検討、刑法学においては保護法益論の再検討などが直ちに問題となるでしょう。これらの論点を突破口として、伝統的実定法学パラダイムを再構築する、というのが、本研究の目指すところです。

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