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研究を始めるにあたって

 2007年度から、科学研究費(基盤研究(S))を得て、私を研究代表者とする「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」というプロジェクトを開始しました。このプロジェクトは、2007年3月で終了した「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」(科学研究費学術創成)の後継プロジェクトです。

日本でも最近、格差や貧困問題に対する関心が高まっています。いわゆる新自由主義的な構造改革の弊害が目立つようになりました。今回のプロジェクトでは、そのような市場中心の経済政策がもたらした問題を克服し、平等、社会的連帯、コミュニティなどの価値を擁護するための政治哲学や政策について考察することを目指します。

 今回のプロジェクトを構想するに当たっては、イギリスの政治社会学者、コリン・クラウチの『ポスト・デモクラシー』(私自身の監修により2007年3月に青灯社から日本語版が刊行されました)という本を読んだときの刺激が出発点となっています。詳しくは同書を読んでいただければよく分りますが、クラウチは現代の先進国に共通するパラドクスを説明しようとしています。即ち、グローバルな資本主義の圧力が高まる中で、普通の人間の生活を支えてきた福祉国家の諸制度を政府が解体しているという現状をクラウチはポスト・デモクラシーと呼んでいるのですが、こうした状況にあってなぜ人々が自らに不利になるような政府や政策を支持しているのかという大きな問いにクラウチの書物は、答えようとしています。

 日本でも、小さな政府の掛け声の下で社会の平等や安定を確保してきた政策が解体され、現在の政権が「戦後レジームからの脱却」を叫んでいます。こうした状況は、日本版のポスト・デモクラシーといえると思います。

 市民社会民主主義とは、ポスト・デモクラシー状況を乗り越えるための鍵概念です。この概念は、市民社会と社会民主主義を接合したものです。(詳しくは、山口、宮本、小川編『市民社会民主主義への挑戦』日本経済評論社、2005年を参照してください。)そこには、市民社会は社会民主主義的な制度・政策の土台の上に花開くという側面と、社会民主主義は市民社会の活力によって持続可能になるという側面の、二重の意味がこめられています。市民の力によって、社会的価値を増進する民主政治を展開するという大きな理想が、このプロジェクトの究極のゴールです。

 今まさに、政治学の存在意義が問われています。現状を分析することはもちろん、現状を乗り越えるために何が必要かを考え、発信することは、政治学の使命です。そのような思いを共有する同世代や若い仲間を集め、研究チームを作りました。これから5年間、政治学の可能性に挑戦してみたいと思います。

 アカデミックな論文を書き、政治学の研究水準を引き上げることはもちろんですが、多彩なゲストを招いた公開のシンポジウムや、一般市民向けの本の出版など、多様な形で情報発信をしていきたいと考えています。

研究代表者 山口 二郎