今回の仏大統領選決選投票の約84%という投票率は、最近の選挙では最も高く、驚くべき数字だ。背景には、高い若年失業率や失職のリスクを抱えた社会全体を覆う停滞感を、政治によって打破したいという仏国民の強い期待がある。エネルギッシュで機転のきくサルコジ氏に対し、「この人なら変えてくれる」と投票したのではないか。
ロワイヤル氏は、清新さが魅力だったが、政策に一貫性がなく、具体的な提案が乏しかった。また社会党の組織が固まり切らず、中道票を取りこぼし、敵失として、サルコジ氏に有利に働いた。
今後のサルコジ体制を占うには、六月の国民議会(下院)選挙の結果が鍵になる。ここで与党が多数派を形成できるなら、サルコジ氏はダイナミックな変革型の政策を推進できるだろう。
ただ、サルコジ氏が志向しているとされる英米流の経済自由主義的な改革は、保守的な仏社会を刺激する可能性が高く、困難も予想される。当面週三十五時間労働制の骨格を尊重しながら、勤労意欲を刺激する方向に、徐々に緩和していくのではないか。
サルコジ氏は勝利演説で、欧州連合(EU)統合を外交問題の最初に持ってきて、仏国民投票による欧州憲法の批准否決の後始末に積極的な姿勢を示した。EUなしではフランスの国家的影響力は示せない。憲法の趣旨を尊重しつつ中身を簡略化し、政府間合意を目指す方向で、現実的にEU統合を進めていくだろう。
対米関係では、イラク戦争で悪化した関係を正常化する方向に向かうのではないか。日本に対しては反日でも親日でもなく、他のアジアの国々と同様、実務的に対応するだろう。(インタビューによる記事)
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