家庭という親密圏までグローバル化するなどというとひいてしまう人が多いかもしれない。しかし、ケア労働の国際化を通じて、それは多くの国で観察できる現象となりつつある。
背景には、先進国における高齢化と女性の就労がある。福祉が充実しておらず、男性が家事やケアを担当しないところでは、結果として家庭におけるケアの需給バランスが崩れがちだ。この「ケアの赤字」を埋めるため、発展途上国からケア労働者―圧倒的に女性が多い―がやってくる。
ヨーロッパではイタリアがこの点で、「先進的」である。比較的早い1980年代からエリトリア、フィリピン、ペルーなどのケア労働者を受け入れてきた。90年代以降、特に今世紀からルーマニアやウクライナ人女性の流入が急増した。
こうしたケア・家事労働者をイタリアでは「バダンテ=badante」(世話する=badareの派生語)という。
ビザなしで働いている人も多いため正確な数は不明だが、いまや65万から100万超のバダンテが在住しているはずだ。多くは高齢者のいる家庭に住み込み、かつて妻、娘、義理の娘が担ってきた労働に従事している。彼らの賃金は月700〜900ユーロ程度なので、イタリア人を雇うケースと比べると約半分である。
興味深いのは、あまりに広範囲に浸透した現象なので、北部同盟などの移民排斥政党も、このバダンテに関しては例外措置をとり、滞在を認めることだ。
この外国からのケア労働者の導入は、他の南欧諸国にも同様にみられ、またオーストリアやドイツなどにも広がっている。
事情はアジアでもそうはかわらない。香港・台湾・韓国・マレーシアなどに約80万人の外国人家事・ケア労働者がおり、そのほとんどが女性である。関連して、端からケアの提供を期待した国際見合い婚も増加傾向にある(国際結婚数は台湾では7組に2組、韓国農村でも3分の1超)。
東京でも外国人家政婦が静かに広がっている。また、日本の高齢化の最前線である介護施設にインドネシアやフィリピン人女性が入ってきたのは記憶に新しい。
こうして各地でケア労働者たる外国人女性の越境が、高齢化時代の家庭や施設の風景を劇的に変えている。
振り返ると「家庭」という現象はこの数世代で相当変化してきた。大家族から核家族へ。そして最近一人暮らしの「家庭」は、日本全体の4分の1を超えた。
いまや「家庭」という親密圏は、内に外国人を含み、施設へと外部委託され、拡散とグローバル化の波を受けているのだ。
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