「大人の国際関係」が見落としているもの
外交や国際政治は大人の世界に属する。その一般的なイメージの陰に隠れて、子どもは国際関係の主要テーマとなる。
全17章からなる本書は、タイからブラジルまで、あるいはイランからシエラレオネまで、子どもに関するデータや事例を一つひとつ取り上げ、現地における問題への取り組みを紹介しながら、大人の国際関係が作り出す陰に光を当てる。貧困、戦争、搾取・抑圧の向こう側には、一体どんな子どもの世界が開けているだろうか。
たとえば、日本が関わったイラクへの経済制裁は、同地の子どもにいかなる影響を及ぼしたのか。こうした政策検証は、大人の間の戦争を避けるという(それ自体では正しい)問題設定のもとで、きちんとなされてこなかった。
このテーマを扱う菅英輝(9章)は、対イラク経済制裁が、湾岸戦争時における大人の死者をはるかに上回る、約50万人の児童の超過死亡をもたらしたことを指摘する。その上で、経済制裁を「大量破壊兵器」だとし、子どもに関する世界規範との乖離を鋭く問題提起する。
そうした子ども関連の世界規範は、国連やその専門機関を中心として形成途上にあり、なかには重大な影響を及ぼすものもある。
米田真澄(12章)が明らかにしているが、世界規範の典型例である子どもの権利条約は、1994年に批准を済ませた日本においても、児童の福祉、虐待、入国管理関連の法律改正・制定につながっている。また、人身売買や性的搾取に関する行動計画の策定などに影響を与えた。
あるいはまた、そのような世界規範の醸成が不十分な分野も多々ある。1年で3万組以上が成立する国際養子縁組はその好例であろう。養子縁組と人身売買とが紙一重であるとき、その二つを分別する共通規範は不可欠だ。柄谷利恵子(14章)が強調するように、まずは1993年のハーグ養子条約が出発点となろう。
これらの争点はいずれも、日本が掲げている「人間の安全保障」の具現化につながる。本書は、数年に及ぶ共同研究の末に、子どもに焦点を当てて具体的な方向性を打ち出している。その点からも、注目すべき著作である。
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