マスメディアの「常識」に惑わされないために
マスメディアは政治を劇場に見立て、政治家、報道関係者、学者等が毎日のようにコメントを繰り返す。しかし、しばしばこうした「専門家」によってつくられるイメージとずれた形で、普通の有権者の意識は動いている。
本書は、そこに目を凝らして、先の総選挙でどのように自民党が惨敗にいたったのか検討する。データを見つめ直し、次々と「常識」をくつがえしてゆく。
巷では、小泉政権による構造改革が格差を広げ、農村を疲弊させたという「負の遺産」ゆえに自民党は負けたとか、移り気な無党派層の「振り子」現象が小選挙区制で増幅された(だけ)といわれる。
そうした「常識」に対し、菅原は、まず現代日本政治の主役である「新しい投票者」を提示する。この人々は、20〜50歳代のうち、比較的若い都市居住者によって形成される。2009年の惨敗は、何よりも小泉後の自民党政権が、この人々を取り込めなかった点に求められる。
また菅原は、自民党が小選挙区では「健闘」したというのは神話だと分析した上で、「振り子」はそう簡単に自民党に戻らないという。というのも、民主党候補が、自民党候補のもっていた「有力感」を帯び(その意味で成長し)、与党になったいま、さらに「勝ち馬投票」を獲得する可能性が増しているからである。社民党や国民新党との共闘や、共産党の小選挙区からの部分的撤退も、民主党にとってプラスに働く。
小泉を支持しても自民を支持しない人々は、構造改革から後退し、ときに右傾化し、「人気」指導者への交代で乗り切りをはかろうとする自民党にそっぽを向いた。にもかかわらず、多くの論者は、自民党同様、若者は「右傾化」しており、麻生は「人気者」なのだと見誤った。データはずっと、その逆を示していたはずなのに。
もっとも、こうした「新しい投票者」を民主党がつなぎとめられるかどうかは、同党政権次第ということにもなる。
本書は、目立つ少数者でなく普通の有権者の動向を、できるだけ複眼的に追う。世論と選挙の分析リタラシーを効果的に引き上げる秀作である。
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