鳩山由紀夫前首相と小沢一郎前幹事長が退き、内閣支持率がV字回復した。世論は、選挙直前の「表紙」の張り替えに踊らされたのであろうか。必ずしも、そうではないと思う。
政権交代後、政治の変化に期待を寄せた有権者は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題をはじめとする鳩山首相の「軽い言葉」と、「政治とカネ」問題に象徴される「古い政治」の継続に失望感を味わった。こうした中、菅直人首相は「脱小沢」の方向を明確にした。有権者は久々にトップリーダーのはっきりした意思を感じた。
そもそも小沢前幹事長は、民主党にとって「教師」であると同時に「反面教師」でもあった。2003年に民主党と小沢氏率いる自由党が合併した時、民主党で求められたことは、風頼みの選挙ではなく、地域に入って票をかき集めてくる党に変わることだった。実際、07年参院選や昨年の衆院選までは教師の面が前面に出て、勝利につながったといえる。
一方、小沢的政治手法は「反利益政治」が原点である民主党を、利益誘導政治に引き込みかねない側面があった。「政治とカネ」はまさに反面教師の面が表れたもので、民主党のイメージを損ねた。
鳩山前首相と小沢氏の「軽い言葉と古い政治」が崩壊し、菅首相が脱小沢にかじを切ったことに、国民は最後の希望をかけた。ここで問われるのは、「約束の言葉と新しい政治」への転換だ。「小沢学校」を本当に「卒業」したと示すには、二つの点が問われる。
まず、地域から幅広い民意を集約しつつ、利益誘導から決別する新しい政治のかたちの構築だ。「政治主導」とは政治家が思い込みで動くことではなく、公共の観点で社会からの働きかけを束ねること。これまでの民主党政権はその仕組みをつくらず、マニフェストだけが民意と強弁し、自縄自縛に陥った。一方で、水面下では道路予算の個所づけのような利益誘導が続いた。
菅政権で党政策調査会が復活するが、幅広い民意を政治家が先頭に立ってまとめ上げる仕組みができれば、大きな可能性がある。
もう一つは、野合ではない合意の政治への転換だ。活力ある政治とは単なるたたき合いではない。財政が危機的状況にあり、貧困や失業が深刻さを増す中、政治ゲームに興じる余裕はない。この点で菅首相が所信表明演説で、超党派の「財政健全化検討会議」設置を提案したことは注目できる。
例えば菅首相の掲げる日本型「第三の道」路線は、たちあがれ日本の与謝野薫共同代表が唱える「安心社会」論とかなり重なる。
財政と社会保障の再建は超党派で円卓を囲み、一致点を確認し合いながら進めていくことが重要だ。もちろん相違点は大いに議論すべきだが、共通の土台があって初めて対立軸が見えてくるはずだ。
今回の参院選は本来なら民主党政権の通信簿をつける選挙だったが、直前に首相が変わり、意味合いが変わった。変化の芽はあるが、いずれもまだ提起された段階。鳩山政権8ヵ月の実績を厳しく評価するか、それとも8カ月で学んだ民主党に期待するか。そこが判断の分かれ目であり、日本政治の分かれ目になるかもしれない。
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