連合傘下の北海道教職員組合(北教祖)による民主党候補陣営への違法献金事件の真相はまだはっきりしません。ただ労働組合にすれば、疑惑をもたれるだけでも明らかに打撃です。
連合は近年、法令順守に取り組んできましたが、それが下部組織まで十分に浸透していない。一枚岩にみえる連合ですが、内実は「中央」の力が弱く、産別や単組が力を持つ分権的な組織。だから本部の方針が「地方」の末端までなかなか伝わらない。そこでは「古い政治」のやり方が残っています。
「古い政治」は政党の側にも残ります。小選挙区制を基調とする衆議院の選挙制度改革や、政党交付金を導入した政治資金改革で、民主、自民両党とも「中央」レベルでは「政党本位」の政治が確立しつつありますが、「地方」レベルでは「政党本位」は未成熟で、従来型の政治が依然、根強い。
議員や候補者は地方の政党組織に頼れないため、独自の後援会を組織します。民主党の場合、後援会が弱ければ、労組が肩代わりするケースが多い。資金も党本部から支給されるものの、それだけでは足りない。民主党には労組にお金を依存する議員や候補者もいます。
北教祖の事件は、いわば地方レベルで労組と政党が抱える「古い政治」を温床にして起きたといえるでしょう。
こうした不祥事があると「政治から労組を排除しろ」という声が出がちです。でも、私はそうは思いません。バラバラの個人だけでは民主主義はうまく機能しません。労組を含む団体が再生した上で、一定の役割を果たすのが望ましい。
そもそも労組はどう政治にかかわってきたのでしょうか。
敗戦から1950年代にかけ、労組は経済復興や平和運動の担い手として、組合員の狭い利益にとどまらず、国民全体の利益を追求しようと努めました。高野実や太田薫といった国民にアピールするリーダーも輩出しました。政党との関係は密接であり、社会党と総評、民社党と同盟は、現在の民主党と連合よりもはるかに一体化していました。
その後、自民党長期政権のもとで利益誘導型の政治が定着すると、労組も組合の個別的な利益を重視する度合いを強めました。官公労は社会党を使って賃金や労働条件の向上を勝ち取ろうとし、民間労組は省庁への働きかけや審議会への参加を通じて要求の実現を図りました。労組からかつての活力が失われていきました。
労組を結集して89年に発足した連合は、自民党政権の打破を目ざして90年代、政治改革の一翼を担います。ところが、皮肉なことにその改革は、労組のあり方に転換を迫るものでありました。小選挙区制、二大政党制、首相権限の強化といった英国流の多数決型民主主義が導入されると、連合などの団体は政策決定の場から徐々に排除されたのです。
小選挙区制のもと、政党は浮動票を左右する世論に敏感にならざるを得ません。連合は民主党の最大の支持団体ですが、両者の関係も世論の動向に大きく影響されました。小泉内閣期に世論が「小さな政府」の新自由主義に傾き、労組が既得権勢力とみなされると、民主党は連合から距離をおきました。逆に格差問題が世論の注目を集めると、2006年に代表となった小沢一郎氏の主導で、連合との関係を修復します。
その際、小沢氏が着目したのは、選挙における労組の組織力でした。「どぶ板」選挙を重視する小沢氏にとって労組の地方組織は、頼りになる存在です。先の総選挙では民主党が連合の力を最大限使い、勝利をおさめました。
組織率の低下が示すように、労組の弱体化は多くの欧米諸国や日本に共通の現象です。労使対立は政党政治の重要な対立軸ではありますが、それが政治を規定する力は総じて低下しています。英労働党でもブレア前首相らの党改革の主眼は労組依存からの脱却でした。
こうした風潮のなか、連合は今後、どう振る舞えばよいのでしょう。現在、日本政治で決定的に重要なのは世論。民意を引きつけて選挙に勝つ。それが二大政党の至上目的です。連合も世論を味方につけなければ、民主党との関係すら危うくなります。既得権勢力という批判を払拭するため、国民の多数の利益を追求する姿勢をアピールしなければなりません。その意味で北教祖の事件は深刻な問題なのです。
03年以来、連合はこれまでのあり方を反省し、地域活動の強化やNPOとの連携、非正規・女性・中小企業労働者の組織化などに取り組んできました。この社会的労働運動の路線を強め、開かれた運動体として活力を取り戻すことが大切です。
メディア対策も重要。労組スタッフの多くは志を抱き献身的に活動しているのに、それがほとんど伝わっていません。発信力のあるリーダーの育成が求められます。
古い政治が色濃い「地方」では、選挙制度や政治資金制度、政党組織の改革にまで踏み込まなければなりません。連合も産別や単組が主体の政治活動を見直し、連合本部の機能を高めていく必要があるでしょう。
政治資金制度については、企業・団体献金を廃止する一方で、個人献金の集合として政治団体の献金は認めるべきです。労組の政治活動は組合員が自分の意思で参加する政治団体に軸足を移し、透明性を確保するのが望ましいというのが、私の考えです。
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