現代デモクラシーの基本は市民の選挙で選ばれた人や集団が、市民が従わなければいけないような決定を下していくということです。しかし人や集団を選ぶことで決定の内容までも選べるというのは、今の政党の在り方からいってなかなか期待できない。選挙でできることはある程度、限られているのではないか、そしてそのことを私たち有権者はしっかり意識しておかなければならないのではないかと思うんですね。
理念・信念か 雰囲気か
サークルなどの代表選挙を考えてみましょう。基本的なモデルとして候補者が2人だけとします。タイプは二つある。一つは理念・信念の人。良くいえば理想主義者、悪くいえば柔軟性に乏しく融通がきかない。代表になったらこうやる、というのがはっきりしていて口にもしている。これはメンバーの間では好き嫌いがはっきりするんですよ。
もう一つは理念や信念があまり見られない「雰囲気」の人。良くいえば臨機応変、現実主義的ですが、悪くいえば芯がない、その場しのぎでブレる。信念や理想をはっきり言わない八方美人なので、絶対嫌いという人はそんなにいないかもしれないが、大好きというファンもいない。
候補が2人とも理念・信念の人のときはいいんです。やっていくことは予想できますから。問題は2人とも後者のタイプのときです。選挙では相手の出方や状況をみて思いつき的に「これをやります」と言っているので、まとまりがない。代表になった後も反対意見を前に悩んだりで、選挙の際に言ったことはあまりあてにならない。
今の政治状況がこれに近いと思っているんです。理念・信念がはっきりしていると敵も多く支持の広がりを得られない。そうなると大きな政党は理念を薄めて票を取ろうとします。見た目明らかに違うということにはならず、本当の溝はなくなる。それが端的にイデオロギーがなくなっているということを反映しています。昔のように資本主義か社会主義かといった将来の姿を選挙で事前に選択していくことは難しい。
理念のない二大政党は互いに似てくるとされますが、差はなくならない。相手とは違う、ということを言わなければいけないですから。だからこそ具体的で詳細なマニフェストが出てくる。読めば小さいですけど違いは分かることになっています。しかし、どちらもバラバラに思いつきでつくっているところがあって、掲げられた政策に十分な統一性がない。しかもせっかくよく読んで、差を見つけて政権を選んでも、後でブレて見直されると「話が違う」となる。それが続くと選挙などやってもしょうがない、と市民はシニカルになって興味を失いかねない。
ではどうするか。一つは後ろ向きに現職の今までの実績を評価して投票しましょう、その現職者を解任するのか再任するのかをまず考えましょう、と。現職者が属する組織としての政権政党への評価です。選挙は先のことを決めるのではなく、後ろ向きに今までのことを見返して実績を評価するものだ、と考えることなんですね。となると、普段は全く政治や選挙は気にせず、選挙前にマニフェストを読めばいいという省エネ戦略はもうできない。常に政権が何をやっているのかを一生懸命に見てなければいけない。
意見ある人 ぜひ声を
マニフェストについて言えば、変わりうるものだと思います。変えること自体が問題じゃなく、変えるに至った経緯とそう判断した理由を誠実に伝えなければいけない。しかしこの説明はなかなかに難しいので、変えるのはもちろんリスクが伴います。とはいえ、逆にマニフェスト通りにいったからといって、プラスポイントにしていいわけではまったくありません。
もう一つは、選挙だけでは大したことは決まらないと考えましょう、ということです。であれば、意見がある人は声を上げなければいけない。世論調査で尋ねられて電話口でぼそぼそ選択肢から選ぶのではなく、政策に対する賛成や反対の声を自発的に上げ、集会などの行動を起こしていく。その強い意見や行動を見て、政権は熟慮し政策に反映させなければならなくなる。
市民の側には、そうしたさまざまな意見がある中で政権がどういう決定を下したか、それが納得できるものだったかという判断が出てきます。強い反対があったときに多数決で押し切ったのか、何かうまい落としどころを考えたかというような決定のスタイルが、事後評価の重要な判断基準になると思うんですね。
業績をめぐって投票することになるのであれば、与野党は区別をしっかりつけていなければいけない。この点で「熟議の国会」には手放しでほめられない面があります。争点ごとに双方で決定しましたなどと入り乱れると、後で評価するときに実績の区別がつかない。現政権が駄目なときにはもう一方に替えるというのが見える形になっていないと。昨年の参院選後、民主党は新たな多数派の形成に努めるべきだったと思いますね。
選挙の前だけ一夜漬けでマニフェストを勉強するのではなく、常に政治を注視し、問題が起きたら本気で意見を言い、行動に移す。これらのことをやる覚悟があれば、選挙で将来の決定の内容を決めるという楽なやり方はもう成り立たないにしても、選挙による政権選択は重要な意味をもち続けます。
二大政党の理念的な違いがかなりはっきり出ているアメリカなど一部を除けば、世界の主要国は軒並み「理念なき政党政治」の潮流の中にあります。
少なくとも今はこの状態を受けとめ、私たちの考え方を根底から変えなければならないのかなと思いますね。
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