常識覆す世界システム変化
年間8000億ドルもの貿易赤字を出しながら危機に陥らない米ドル、1バレル70ドルを超えても世界インフレや不況とは無縁の原油価格、戦後最長の景気回復を更新しながら低迷を続ける日本の労働分配率など、これらはけっして「予想外の」できごとではない。原因は、経済活動にまで干渉する新たな「帝国」の登場と、国民国家の支配を超えて利潤を追求する「資本」の発展にあると著者はいう。
確かに、米国が「帝国」の力で貿易黒字国に資金の還流(ドル投資)を求め、それを国際金融市場で巧みに運用して利益を上げれば、フローの赤字ほど対外債務は増加せず通貨危機も先送りできる。また、消費意欲の旺盛な米国向けに中国の「資本」が設備を拡大し、規模の経済を梃子(てこ)にして生産性の上昇に成功すれば、資源インフレを克服しながら世界経済の成長も持続できる。さらに、利益の還元を求める国際的な株主が増えれば、好況でも企業は賃金を削減し配当に回さざるを得ない。
歴史学的な視点からグローバル化の本質を解明する本書の議論は説得的だ。しかし、「世界システム」の変化で新たに発生した不安への対応は残された課題である。その意味で本書は、なお未完成と言える。
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