男女共に仕事と家庭の「両立支援」を
夫婦と子供2人。戦後の日本における標準世帯だ。標準と言われてきたのは右肩上がりの成長下で、夫は主たる稼ぎ手、妻は家事・育児の担い手という「ジェンダー(社会的文化的に形成された性別)関係」で構成された世帯が、さまざまな政策のモデルとして扱われてきたからだ。男性の正社員と専業主婦を念頭に置いて政府の社会保障、企業福祉、および家族の相互扶助を組み合わせた生活保障システムも例外ではない。
しかし、ポスト工業化や女性の労働参加の拡大に伴い、非正規雇用で社会保険に加入できない夫とか、仕事か育児かの選択を迫られる妻、あるいはいつまでも結婚しない男女の増加などにより、従来のシステムではカバーできない「新しい社会的リスク」が顕在化している。こうしたリスクに対処するためには、現在の生活保障を性別を問わず、多様な個人を包摂できるシステムに再構築することが必要だと著者はいう。そうでなければ逆に機能する、すなわち「生活を保障するはずのシステムが、かえって生活を脅かし人々を排除」してしまう恐れがあるからだ。
著者が勧めるのは「男性稼ぎ主」型から、男女ともに仕事と家庭を両立できる「両立支援」型への転換だ。「社会政策の重心を、所得移転からサービス保障へとシフトさせ」、「生まれ、育ち、学び、働き……そして生をまっとうするうえで」不可欠なサービスを、誰もが利用可能な料金で、あまねく公平に提供すべきだという。
また、その財源も個人に対しては「稼いだら1円の収入からでも」負担する「単純な応能負担の仕組み」にすると同時に、「雇用形態が多様化し、雇用者が……流動化するもとでは」、人件費の総額を基準にした「拠出を事業主に求めることが合理的」だと主張する。そうすれば、国際的にみて自殺率の高い日本の壮年男性を、妻子の扶養などの重圧から解放することもできるというのだ。
本書は、熱狂のうちに幕を閉じた「小泉改革」を、生活者の視点から決算するうえで格好の研究書と言える。
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