過疎地の窓口懸念
10月1日から日本郵政公社は民営化される。民営化に際して郵政公社が各戸に配布した「もうすぐ民営化」のパンフレットによれば、過疎地での切り捨てが心配された郵便サービスは、「これまでどおり…いたします」となっている。「あまねく公平(ユニバーサル)」なサービスが維持できるよう、政府が基金を積んで郵便事業の赤字を補填するからだ。
しかし、民営化によって郵便、ゆうちょ、かんぽの三つの事業は、それぞれ独立した株式会社の経営となり、各社の収益や経営判断が窓口の維持やサービスの内容に反映されることになる。日本郵政公社の初代総裁の生田正治氏が、2004年8月2日に開催された経済財政諮問会議の自由討議の場で「一度民営化されたら、経営者は資本の論理の使命感と誘惑には勝てない」と言って、拙速な民営化に「異論」を唱えた理由もここにある。
「異論」の背景には、公社の総裁として自らの足で現場を回った実感があった。それは「過疎地では金融機関の74%、生保機関の87%が郵便局」だが、郵便だけではなく郵貯や簡保についても政府がユニバーサル・サービスを保障しなければ、金融サービスに関して地方の「赤字」窓口を維持できなくなる恐れがあるからだ。
郵便局の窓口が閉鎖されても、ネットバンクやコンビニを利用すれば支障はないと言う人に対しても、生田氏は諮問会議の席で「私自身パソコンや携帯は使いこなせない」し、「コンビニは本当の田舎にはない」、だから地方の人にとっては郵便局は不可欠だと反論したのである。
「良質」「多様」とは
小泉前首相は郵政民営化を「改革の本丸」と位置づけ、その効果については中曽根政権時代の国鉄や電電公社の民営化同様に「国民の利益」になると強調した。民営化に先立ち〇四年九月十日に閣議決定された「郵政民営化の基本方針」においても、「経営の自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能になる」とうたわれている。しかし、今回のパンフレットを見るだけでは具体的にどのようなサービスが「良質」で「多様」で「安い」のかはわからない。
衆議院を解散してまで実現した郵政民営化がスタートするなら、まずはどのような利益が「国民」にもたらされるのかを、すべての「国民」にわかりやすく示すことが必要ではないか。郵便局に併設されたコンビニを利用できる大都市の住人や、ハイリスク・ハイリターンの投資信託を購入できる富裕層だけが「国民」ではない。金融のライフライン(生命線)が郵便局だけという地方の住人や、郵便局にお金を預ければ安心だと信じている高齢者も「国民」なのである。
そうでなければ、次の総選挙においては「成長を実感」できない有権者だけではなく、「民営化を実感」できない有権者も反乱を起こすかもしれない。
(北海道新聞「けいざい寒風温風」2007年9月2日)
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