最適規模を探り、消費税10%を提言
小泉元首相が進めた「無駄な歳出の削減」という小さな政府論には落とし穴があった。その穴を埋め財政破綻(はたん)を回避するには早急に増税の必要があると著者は警告する。財政再建の視点から見れば「増税しないで財政危機が解消するほど、日本の財政状況は甘くない」からだ。
しかし国民に新たな負担増を強いても、本書の最終章で著者が提案する政府の最適規模は、北欧諸国のような大きな政府には程遠い「消費税率10%を上限とする相対的に小さな政府」である。そこでは自助努力と自己責任を基本にして生きることが求められる。実際、著者によれば公的年金は「老後の生活に必要な最小限の給付(基礎年金)に限定し」、支給開始も男性75歳、女性80歳と年齢を引き上げ、医療保険も一律に給付するのではなく若いときから健康管理を「きちんと行ってきた人を優遇する仕組み」が望ましいという。
こうした提案の背景には、北欧に比し人口の大きな日本では受益と負担に関する国民の信頼を得るのはむずかしく、その一方で経済の発展にともない「市場メカニズムを活用するメリット」がますます高まっているとの認識がある。確かに、現在でも受益より負担が多いと不満を抱く富裕層や上位の中間層にとっては、政府の規模も役割も小さいほうが良いのかもしれない。しかし、政府が提供する公共サービスに生活の安心と安定を依存せざるを得ない人々には、著者が示す政府は厳しすぎるように思われる。
財政再建のためとはいえ、消費税率10%の負担はけっして軽くない。それでもセーフティーネットが厚くなるなら容認できる面もあるが、現在よりも薄くなるなら何のための負担増かと問いたくなる。小さな政府に固執した小泉元首相の戦略を著者は、「意図的に財政赤字を拡大させ……小泉後の政権ではこれ以上財政赤字を拡大できない」ようにした点で、「したたかな財政運営」だったと評価するが、最終的なツケを回される国民にとってはむしろ「とんでもない財政運営」だったのではないだろうか。
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