失業者に扮して職探しに挑戦
貧困と無縁だったホワイトカラーの専門職や管理職が、アメリカでは生活不安に晒(さら)されている。より良い職を求めて自発的に失業することはあっても、会社から「捨てられる」ことはないと信じてきた「中流の立派な」人たちが、いまや「突然に解雇や休業を言い渡されるのではないかと心配してい」るのだ。
コラムニストの著者は、アメリカでミリオンセラーになり昨年邦訳された『ニッケル・アンド・ダイムド』を書くために、ワーキング・プアを体験したが、本書ではホワイトカラーの失業者に扮して職探しに挑戦する。小銭で食いつなぐ生活と比べれば、「負担が少ないものになるだろうと」高を括(くく)っていた著者は、「やがて、そのすべてが間違っていたことを思い知らされる」。捨てられたホワイトカラーが希望通りの職に就くのは「ラクダが針の穴を通る」よりもむずかしいからだ。実際、何百もの会社に履歴書を送り、1回数百ドルも支払って職探しの指南を受け、エレベータースピーチ(自己PR)の練習に励んでも、まともな会社から「面接をしたい」と返事がくる確率はゼロに近い。
1年近くに及んだ著者の職探しの成果も、わずか2カ所から採用の申し出を受けたにすぎない。それも会社から保険や化粧品の販売委託を受け、売り上げに応じて手数料が入るだけで、健康保険の「特典」もなく「多くの人々が、破産したり……貧困ラインすれすれの収入を稼ぐためにあくせく働いている」ような仕事である。
捨てられたホワイトカラーの多くは失業保険を打ち切られても、貯金が底をつくまで職を探し続け、最後は「社会の階層を下降」していくという。アメリカでは……が、日本でも……になる前に、「報われる保証はない」会社に忠誠を誓うよりも、「経営者の独断や横暴から身を守るために」日本のホワイトカラーは団結すべきではないか。一生懸命働けば安心と安定が得られると喧伝(けんでん)する会社の「おとり商法」(本書の原題)に、いつまでも騙(だま)されていてはならないのである。
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