福田康夫首相が突然辞任を表明した。最後の仕事となったのが「安心実現のための緊急総合対策」(総合経済対策)である。
エコノミス卜の中には景気後退の原因を改革の遅れに求める者もいるが、総合経済対策の冒頭には「2002年第一・四半期から始まった景気回復は総じて外需依存型であり、家計全体は賃金増を通じてその恩恵を実感するには至らなかった」と書かれている。
「上げ潮」派に代表される改革支持者が言いはやしてきた「企業部門の好調は、いずれ家計に波及する」というトリクルダウンは幻想だったと福田政権は判断したのだ。
実際、六年に及ぶ戦後最長の回復過程で利益を得たのは、海外景気の余禄を受けた大企業や、ワーキングプアを仲介した人材派遣業であり、犠牲を強いられたのはグローバルな競争を口実に納品価格や賃金を買いたたかれた中小・個人企業や非正規労働者、および聖域なき歳出削減で福祉の網から振り落とされた高齢単身者や母子世帯などの「弱者」である。
小泉「改革」が看板に掲げた「民間にできることば民間に」は、大企業や派遣元と対等に交渉できない下請けや労働者および公費助成が不可欠な人にまで、市場原理や自助努力の原則を適用し、憲法で保障された「文化的で最低限の生活」さえ困難な状況に弱者を追い込んでいる。
バラマキではない
そうした弱者の救済を目的とする所得保障や負担軽減を「バラマキ」だと批判する識者もいるが、それは言葉の乱用による政策つぶしにほかならない。市場に任せるだけでは行き渡らない経済の成果を、富者から弱者に再分配するのは「均てん」(一定水準の生活をあまねく享受できるようにすること)であり「バラマキ」ではない。
ケインズは大不況の処方せんとなった「一般理論」の最終章で「われわれが生活している経済社会の際立った欠陥」として、非自発的な失業と並び「富と所得の分配が恣意的で不公平なこと」を挙げている。
誤解がないように付言すれば、ケインズは不公平自体が「悪い」と主張したのではない。不公平が原因で経済全体の消費が低迷しているときには、所得税の累進率と相続税を強化して再分配を行い、消費を高めて景気を回復するのが望ましいと提言したのだ。
4兆円の減税必要
今回の対策は生活・雇用支援の一環として定額減税を掲げながら、規模も財源も明示されていない点が迫力に欠ける。当初の政府見通しと比較して民間消費が3−4兆円も落ち込むと予想される中では、最低でも4兆円規模の減税が必要だ。問題は財源だが、最悪なのは富者に配慮して赤字国債でしのぎ、最終的には消費税率の引き上げをもくろむ政治「算術」である。景気対策の王道を目指すならケインズの提言に従うべきだ。そうでなければ弱者も日本の景気も救われない。
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