年越し派遣村。昨年末、東京の都心・日比谷公園に突如開かれた「村」である。住人は「派遣切り」などで職と住の機会を失った人たち。入村すれば最低限のセーフティーネットは確保される。当初、仕事始めの1月5日には閉村の予定だったが、行き場所のない人たちがあまりに多いため、閉校になった小学校の施設などを利用して、しばらくの間「村」は存続するという。
「派遣切り」が急増した直接の原因は、昨年9月の米投資銀行リーマン・ブラザーズの破たんを契機とする世界的な景気悪化にある。輸出依存で飛行を続けていた日本の製造業の落ち込みは特に厳しく、何十年ぶりの悪化を示す統計も珍しくはない。実際、日経平均株価は昨年10月28日に7,000円を割り、1982年10月6日以来、26年1ヶ月ぶりの安値を記録した。
薄すぎる「安全網」
また、昨年12月の日銀短観では大企業製造業の業況判断指数が前回調査比21ポイントも低下し、75年2月と並ぶ34年ぶりの大幅な悪化となった。
さらにトヨタ自動車の2009年3月期の業績は営業損益ベースで1500億円の赤字と、同ベースではデータが残る41年3月期以来、初めての赤字になる見込みだ。ソニーも正社員8,000人を含む16,000人のリストラを計画している。
小泉改革を支持してきたエコノミストの多くは今回の不況と改革の関係を否定し、竹中平蔵元総務相などは、改革の遅れが日本の不況を深刻化させているという。確かに、アメリカ発の世界不況の責任まで小泉改革に負わせるのは「冤罪」の恐れがある。
ただ、問題は不況の原因よりも、リーマンショックからわずか3ヶ月余りで東京の都心に「派遣村」を開村しなければならないほど、日本の雇用が不安定であり、生活の安心を守るはずのセーフティーネットが薄いことにある。
渇水で貯水池の水位が下がると、水位が高いときには見えなかったものが見えてくるように、景気の「水位」が下がり不況になると、好況のときには見えなかった構造問題が明らかになってくる。
既述した例で言えば、派遣労働の規制緩和は好況のときには労働の流動化を促進するように見えるが、不況になると職と住がセットになった製造業の生産労働にまで派遣を自由化した改革の影が見えてくる。同じことはセーフティーネットにも言える。薄いセーフティーネットは好況時には自助努力を促すかもしれないが、不況になると薄すぎて生活できない人が続出するのである。
負の遺産洗い出せ
不況は構造問題を浮き彫りにする格好の機会だ。特に、今回の不況は小泉改革が残した負の遺産を洗い出し、改めるチャンスでもある。改革の続行を唱えるだけで、問題点から目をそらしてはならない。不況の深化に伴い今こそ小泉改革は反省すべきときを迎えているのである。
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