2006年7月の経済財政諮問会議で、当時の竹中平蔵総務相が提案した日本経済の中期的な成長見通し(名目3%)によれば、08年度の名目国内総生産(GDP)は542兆円、09年度は558兆円に増加するはずだった。
しかし実際には、世界的な金融危機の影響を受けて4%前後のマイナス成長が続くと予想されることから、08年度の名目GDPは約500兆円、09年度も480兆円と大幅に減少する見通しだ。
この結果、3年近く前に竹中氏が国民に示した所得と、現実に国民が手にする所得との乖離は、日本全体で08年度42兆円、09年度78兆円、一人あたりでそれぞれ34万円、62万円、一家4人の家計ではそれぞれ136万円、248万円に達すると見込まれる。
36兆円の所得不足
こうした急激かつ大幅な景気の落ち込みを受けて、政府・与党は4月10日に財政支出15.4兆円を含む、事業規模56兆円の追加経済対策を発表した。だが、かつて小泉改革が国民に示したばら色の未来と金融危機後の厳しい現実とのギャップを埋めるためには、なお規模が小さすぎると思われる。
事実、今回の追加対策の効果を考慮に入れても、07年度と同じ生活水準(名目GDPベースで516兆円)を維持しようとすれば、09年度だけで国民一人あたり約30万円、日本全体では36兆円の所得が不足すると推計される。もちろん、不足する所得を貯蓄の取り崩しなどで埋める余裕のある家計は、今回の経済危機の中でも教育費や医療費などの支出を削らずに従来の生活を維持できるかもしれない。
貯蓄ゼロが1割に
しかし、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、貯蓄ゼロの家計が日本全体で1割に達しており、100万人前後の人が職を失ったとたんに生活苦に陥る危険にさらされている。また、貯蓄があっても300万円未満の家計が2割を占めており、収入を絶たれると1年前後で生活費が底をつくリスクを負って生きている人も2000万人に達している。これが、世界でもっとも経済的に豊かな国の一つと言われている日本で生活している人々の実態なのである。
経済対策の規模や内容が発表されるたびに、バラマキだとか効果がないと批判を繰り返すエコノミストや評論家は後を絶たないが、テレビや雑誌に登場して対策を批判する前に、自らの足で、日々の生活に追われたり苦しんだりしている人々の実態を見て回るべきではないか。
経済全体が危機に陥っているときに求められるのは、個々の企業や家計の地道な努力ではなく、政府と日銀による大胆な経済対策である。その対策の量と規模が不足しているから人々は未曽有の不況に苦しみ続けているのだ。決して対策の内容や効果に問題があるから苦しんでいるわけではない。
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