プロ野球シーズンが到来した。危機が叫ばれて久しい日本のプロ野球であるが、開幕当初、パ・リーグでは楽天の快進撃に見られるような予想外の混戦レース、セ・リーグでは巨大戦力補強を行った巨人の思いがけぬつまずきなど、おおいに話題が盛り上がった。
契約慣行のズレ
ところで春先、いくつか気にある出来事があった。
その第一は、米メジャーリーグの日本開幕をめぐって、巨人の上原投手が投じた発言である。(「パが開幕しているのに、何で(メジャーのチームが)来んねん」)。
この発言は、メジャーの開幕戦が、パ・リーグ開幕ヘのファンの関心をそらすことを危惧したものである。メジャーヘの移籍がうわさされる上原投手であるがゆえの、日本プロ野球活性化を思っての真摯な発言であろう。
もう一つは、パウエル投手獲得をめぐる騒動である。一度はオリックスが獲得を発表したパウエル投手が、一転してソフトバンクと契約を結び、両球団が一歩も譲らない対立という事態に至った。
この事件は、より良い条件での契約を求めるパウエル投手側の、それ自体としては正当な要求と、日本のプロ野球の契約慣行のズレから生じたものである。紛争解決をめぐってのごたごたとあわせ、ルール整備の遅れを露呈した。
くしくも2つの出来事は、日本の政治経済が急激な国際化にさらされるなかで、日本のプロ野球もいかに状況に適応するか、そしていかに自らを活性化していけるかを問うきっかけとなった。
活発な選手移動
背景にあるのは、選手の移動の活発化である。有力日本人選手のメジャー流出は止まらない。今春も、福留選手や黒田投手などが、メジャーに移籍した。彼らの活躍はすばらしいが、半面、選手流出が続けば、日本のプロ野球の水準低下につながりかねない。
メジャーの側での、アジアを有望な市場として開拓しようという意欲も明らかである。松坂投手の凱旋当番をはじめ、多くのアイデアが練られている。日本企業が世界との競争を考えるのと同様、いやおうなく、日本のプロ野球は、世界の野球市場における自らの位置づけを考えざるをえない。
にもかかわらず、選手の移動をめぐるルール整備は遅れたままである。ポスティング制度などには、いまだ不透明感が大きい。日本でプレーする外国人選手の移籍をめぐっても、ルールがないに等しい現状である。
今年、エースと四番バッターが一度にいなくなるチームが、2つもあった。このままでは、遠からず球団維持にも困難をきたすチームが続出しかねない。
知恵と努力結集
野球をめぐるグローバル化の波は、もはや止めようがない。活躍の場がひろがる選手はもちろん、世界の異なった野球を楽しめるファンにとっての利益も無視しがたい。これを無視して一国内の野球に閉じこもることが非現実的である以上、今こそ、真剣に日本のプロ野球の将来を考えるベきであろう。
グローバルな選手移動をいかに円滑かつ公正に行うか。選手の移動を前提にして、それぞれのチームがいかにチーム運営をし、魅力ある野球を展開するか。そして何より、日本の野球全体が、日本の野球ならではの魅力と質を、いかに維持・発展していくか。上原投手ではないが、日本のプロ野球を活性化するために、知恵と努力を結集すべきであろう。
これに失敗するならば、日本のプロ野球は空洞化し、メジヤーの単なる下部リーグとなりかねない。いたずらに選手の流出をなげくより、これを新たな選手の発掘と育成の機会とすべきである。
以上は、もちろんプロ野球論にとどまらない。むしろ念頭にあるのは、グローバル化が進むなかでの日本社会そのものである。
プロ野球をだしに、自分の属する組織や日本社会を論じるのは、多くの日本人(少なくとも筆者ぐらいの世代までは)の大好きなことである。この際、プロ野球開幕を祝いながら、日本社会の未来を論じるきっかけにしても悪くはあるまい。
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