福田康夫首相が、内閣改造と自民党役員人事を行った。これを受けての世論調査は、各社によってばらつきがあるが、政権の求心力回復に大きく寄与をしたとまでは言えないようだ。
麻生派とりこみ
改造前の福田内閣には、前回の総裁選挙で対抗した麻生派をのぞき、各派の領袖や将来の領袖候補がそろっていた。今回、その多くは留任もしくは横滑りで、政府・与党のポストにとどまった。さらに、麻生太郎氏が幹事長に就任することで、事実上、反主流派が存在しなくなったことになる。
とはいえ、これで福田内閣の党内基盤が揺るぎないものになったかといえば、そうではない。
自民党は、派閥というかたちで多様な政治潮流を競合させることで、党内活力を生み出すとともに、党の顔となる勢力を入れ替えることで、擬似政権交代を行ってきた党である。人事においてこそ、この党の持つ柔軟さ、敏感さがもっともよく示されてきたといえる。
その意味でいえば、今回の内閣改造、党役員人事は、自民党のもつDNAが遺憾なく発揮されたとはいいがたい。
唯一の反主流である麻生派をとりこむことでオール与党体制を築いたものの、そのことは同時に、もはや党の多様性やダイナミズムを演出することができなくなったことを意味するからだ。
さらに福田首相と麻生幹事長とでは、目指す政策においても少なからぬ違いがある。とくに対米、対アジア外交における方向性には、はっきりとした緊張関係がある。今後、内閣と与党、さらに連立与党である公明党との関係は、ますます難しくなっていくだろう。
政治風土の転換
にもかかわらず、福田首相がこのような選択を行った背景には、いうまでもなく、政権喪失ヘの危機感がある。自民党内部における多様性やダイナミズムの演出も、自民党の政権が続くことを前提としたうえでの話である。いまや、そのような前提は存在しなくなってしまった。
麻生氏にとっても、幹事長就任は、福田政権との連帯責任を負うことを意味する。しかしながら、いくら政権から距離をとり、フリーハンドを持ったとしても、自民党が政権から転落してしまっては元も子もない。麻生氏としても、そのような判断をせざるをえなくなったということだろう。
このことは、日本の政治風土の大きな転換を意味するのかもしれない。自民党はもはや内部対立を自らの政治的エネルギーに転化することはできない。党内になんとかまとまりをつけ、政権選択選挙において、少しでも有利をはかるしか道はないのである。
このことを考えれば、野党民主党において、党代表選挙に向けて、なかなか対立候補が出てこないことも不思議ではない。選挙を目前に、いかに党の結束を強化するか。無風選挙も問題だが、かといって、党内に亀裂が走ることだけは回避しなければならないというのが、本音であろう。
多様性の保持を
今回の内閣改造と党役員人事で、とりあえず自民党は選挙に向けての体制を固めた。民主党においても、遠からず、体制を構築するだろう。
ただし、自民・民主の両党が、とりあえず現状において内を整え、臨戦態勢にこぎつけたとしても、両党がそれぞれの有効な政策的メッセージを打ち出せるかは、依然として不朋なままである。
おそらく、次の総選挙の結果は、これまでの日本の政治風土に決定的に終止符を打つだろう。しかしながら、自民党内の派閥間ではなく、政党間において政策を競い合うという新たな政治のあり方を生み出すために、いまだ道のりは長い。
何よりも、各政党が自らのなかに多様性を保持しつつ、党としての一貫性ある政策を打ち出していくことが求められる。
既存の社会の仕組みの安定を前提に、そこにダイナミズムをもたらそうとしてきた自民党。生活者の視点から、抜本的な変革を目指す民主党。それぞれの原点に立ち戻り、自らの政策的メッセージを鍛えていくことが期待される。そこに小政党がどうからむか。今後の焦点である。
(北海道新聞「論考08」2OO8年08月18日夕刊)
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