激動の一カ月であった。まずアメリカでは、サブプライムローン問題に端を発した金融の混乱のなかで、9月15日に大手証券会社リーマン・ブラザースが破綻し、同じく大手証券会社のメリルリンチが、バンク・オブ・アメリカに買収された。
米大統領選直前
金融危機の様相が強まるなか、さらに巨大保険会社AIG救済のため、アメリカ政府による公的資金の注入が行われた。状況は依然として深刻であり、一部のエコノミストからは、「大恐慌以来」、「百年に一度の危機」という声さえあがっている。
今回の金融危機の深刻さの一因は、それが政治的にも大きな転換期、移行期のさなかに起こったということにある。
端的なあらわれは、アメリカ大統領選である。金融危機は、11月投票の大統領選の行方にも大きな影を投げかけているが、新しい大統領が就任するのは来年のことである。それまでの間、抜本的な対応はとりにくい。
9月29日、七千億ドルの公的資金を投入して不良債権を買い取る緊急経済安定化法案が、米国議会下院によって否決された。大統領選と同じ時期に改選を控え、大量の公的資金投入に批判的な国民感情が、議員の投票行動に大きな影響を与えたことは間違いない。
最終的には修正案が可決されることになったとはいえ、世界恐慌を引き起こしかねない危機的な状況に対し、アメリカ議会が内向きの対応しかとれなかったことは、世界の先行きに対し大きな不安をもたらした。
政治的にも重要な問題が続くなか、はたしてアメリカはどれだけ責任ある対応をとっていくのか、またとっていけるのか、世界の関心が集まっている。
日本の政局にも
金融危機が、政治的な転換期、移行期に起こったという点では、日本も同じである。アメリカの金融危機が日本にどのような影響を与えるかは、まだ見通しがつかないが、多量の米国債を保有する日本にとって、アメリカ経済の浮沈は死活的である。
この金融危機が政治に影響を及ぼしているという点でも、アメリカと日本は共通している。解散するかしないか、およびその時期の決定は、最大の政治的重要事項だが、今回、アメリカ発の金融危機が大きな影響を及ぼした。
しかしながら、議論は皮相的なレベルを越えず、むしろいつ選挙を行えば与党にとって有利か、というきわめて短期的、局所的な視点だけが圧倒的な意味をもったことは否定しがたい。
政治と経済の関係は微妙である。経済的視点からみれば必要とされる決定が、政治的に考慮すべきほかの要因ゆえに、否定されることがある。政治的に積み重ねられてきた議論が、経済情勢の変化によって一瞬で吹き飛んでしまうこともある。
国際的な視点で
このように政治と経済の間に緊張があるのはたしかだが、それゆえにむしろ、政治的正当性と経済的合理性、民主主義の論理と市場の論理との間に、不断の対話が求められる。相互に足を引っ張りあったり、一方が他方を口実としてはならない。
世界のなかでの日本の行方を考慮したうえで、いかなる経済的対応が求められ、そのための政治的合意をいかに取りつけるか。政治的決定の手順を決めるにあたっては、より長期的・国際的な視点が求められる。
何よりも、ますます世界の流動化、不安定化が進むなかで、日本が責任ある対応をとっていくために、いかなる意志決定をしていくべきか、という視点が重要である。
相互に依存しつつも、将来への見通しがつかない現在の世界において、日本があくまで一国内の狭い視点からのみ思考し、世界に向けて発言しようとしないならば、世界の日本を見る目は、厳しくなっていくばかりだろう。
世界の政治と経済に対し、日本がいかに責任ある行動をとるか、またそのためにどのような議論を国内でしているか。今後の政治の議論が、明確にしていくことを期待している。
(北海道新聞「論考08」2OO8年10月17日夕刊)
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