民主党の大勝を、ポピュリズムの産物とする見方も少なくないが、むしろ有権者の熟慮の結果として行われた「民主主義の実験」ととらえるべきだ。
選挙戦の異例の長さにもかかわらず、有権者はぶれなかった。メデイアが300議席超えの予測を報じたことで、反動も懸念されたが、民主党支持は揺らがなかった。有権者は、民主党の欠点も知りながら、それでも政権交代しかないという冷静な判断を下した。
小選挙区導入から13年を経て、有権者は、政権を代えることで政治を動かすというこの制度の意味を十分に理解するようになった。さらにここ数年、拡大する格差や貧困などの社会問題を、政治で変えていくべきだという意識が高まった。その二つが合流し、有権者の政治的成熟をもたらした。
民主党もまた成熟した。06年に小沢一郎氏が代表に就任して以降、それまでばらばらに存在していた3つの考え方がゆるやかに結びつき始めた。旧社会党系の社会民主主義、小沢氏に代表される地域重視の保守主義、鳩山由紀夫氏の「友愛」に象徴される道徳主義的な自由主義が連合し、小泉自民党的な新自由主義へのアンチテーゼとして機能するようになった。
この方向性に、成熟した民意が反応し、新たな選択肢を提示した民主党に政権を委ねてみるという「実験」を試みた。それが今回の政権交代の本質ではないか。
ただ、このまま自民党がイデオロギー色を強めれば、少数政党に転落するしかない。批判勢力を失った民主党も迷走し、「実験」は失敗する公算が大きい。自民党が政策的対案を示せる「健全な野党」として機能することで、民主党もより成熟し、有権者が政権交代に託した「民主主義の実験」の成功につながるだろう。
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