前回の本欄やほかのウェッブサイトなどで、東京都知事選挙に向けた反石原勢力の結集について書いたところ、特に共産党やその支持者から大きな反発を受けた。この文章は投票日直前に掲載されるので、あえて私の意図をもう一度書いておきたい。
まず大前提として、私は共産党を敵視する意図はまったく持っていない。むしろ、この1年ほどは、共産党と近い関係にある全労連系の労働組合や民医連などの団体にも呼ばれて話をする機会も多く、これらの団体の人々は仲間だと思っている。国内の不平等問題や憲法9条と安全保障に関する私の発言は、すべてとは言わないまでも、おおむね護憲派、市民派の人々にも共有されるものと思っている。小泉、安倍の両政権が進めてきた数々の悪政を止めなければならないと思っている点でも、同じである。
問題は、悪政を止めるための具体的な手段をどのように選択、行使するかという点にある。もちろん、デモ行進や座り込みなどの具体的な闘いも必要であろう。私自身、世論を喚起するという迂遠な作業を気長に続けてきたつもりである。しかし、運動だけでは政治は変わらない。民主主義体制において最も有効な政治参加の手段が選挙であることは、明らかである。そして、選挙では善戦することで満足するのではなく、最後まで勝つためにあらゆることをすべきである。
大選挙区(たとえば参議院の東京選挙区)や比例代表の戦い方と、定数1を選ぶ小選挙区や首長選挙の戦い方は、根本的に異なる。前者の場合であれば、各政党は思い思いに自分の主張を掲げて戦えばよい。しかし、定数1を選ぶ選挙では、次善の策を選ぶという妥協も必要である。安倍政権の悪政を止めたいと思う人々がいくつかの集団に分かれてしまい、それぞれの支持者が自分にとっての「最善」を追求すれば、反安倍の票は散らばってしまい、安倍が相対的な1位を取るという「最悪」の結果が訪れる。
フランスの大統領選挙や小選挙区の国会議員選挙では、二回投票制があり、1回目には様々な政党、団体がそれぞれの「最善」を追求し、2回目に「次善」を選ぶという頭の切り替えが容易にできる。しかし、日本の場合、極端な低得票率の場合を除いて相対的な1位の候補者が当選することになっている。もし日本にも二回投票制があれば、第2ラウンドで自民対非自民という分りやすい対決構図ができるのだろうが、そんな贅沢は言っていられない。自分の票を死票にしたくない意識的無党派層は、とくに、フランスの第1ラウンドに相当する選択を本番の選挙の前にすることが求められる。
もちろん、共産党は独立した政党であり、自らの意図に基づいて行動することを妨げることは誰にもできない。ただ、これからの国政選挙や憲法改正に反対する国民的な取り組みの中で安倍政治を倒すためには、自公政権の悪政に反対する者の間に最低限の相互了解や信頼が必要である。そのためには、最大の敵が誰であるかという認識を共有することが不可欠である。選挙に勝つこと、政権交代を起こすことによってしか、政治は変わらない。これから我々は何をなすべきか、真剣に考えなければならない。
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