いよいよ参議院選挙の投票日である。読者の方々も、この国の将来をしっかりと見据えて、必ず投票に行かれるよう、願っている。選挙戦は昨日で終わっているので、本欄でも政党や候補者についての論評は差し控え、今までの選挙戦から見えてきた今回の参議院選挙の特徴について考えてみたい。
今回の選挙は一二年に一回めぐってくる亥年の参院選である。過去の結果を振り返ってみると、亥年の参院選は投票率が低く、それにともなって自民党が苦戦する傾向があった。この「法則」を発見したのは、今は亡き政治ジャーナリストの石川真澄氏であった。関心のある方は、石川氏の著書『戦後政治史』(岩波新書)の巻末に収録されている各選挙のデータを見ていただきたい。
石川氏はその理由を次のように説明していた。亥年の参院選は、四月の統一地方選挙の直後に行われる。自民党の参議院議員は、衆議院議員と比べて自前の後援会組織を十分に作っていない場合が多く、実際の選挙戦は地方議員に依存する傾向が強い。ところが、亥年の場合四月の地方選挙で手足となる地方議員が疲れきっており、集票活動が鈍る。したがって、全体として投票率が下がり、自民党は苦戦する。
石川説は、戦後保守政治のある側面を説明するものとして、政治家自身やジャーナリストから支持されてきた。この説の重要な前提は、地域の保守政治家が持っているネットワークが活発に動くかどうかによって、選挙民が投票所に足を運ぶかどうかが左右されるという点である。
今回は、亥年の選挙でありながら、国民の関心は今までになく高いようである。期日前投票は空前の数に上り、世論調査でも選挙に関心を持つと答えた人は従来よりも増えている。全体として、投票率は参院選としては久しぶりに六〇%を超えることも期待されている。石川説が外れるということは、日本政治に大きな地殻変動が起こっているということを意味しているように、私には思える。
今回の選挙の最大争点は、言うまでもなく年金である。どの党に投票するかにはかかわりなく、有権者は各党の年金政策を重視していることが、世論調査に現れている。これに続くのが、雇用、福祉、格差などの問題である。これらはいずれも全国レベルの課題であり、国全体の政策を変えることによって解決される性質のものである。これに対して、地域固有の問題について訴え、住民の歓心を買うという政策主張は、影を潜めたように思う。たとえば、私の住む北海道は、依然として地域の疲弊が続いており、地域経済の活性化は大きな課題である。中には札幌まで新幹線を引くことを重点政策に掲げた候補者もいたが、新幹線延伸という政策はあまりインパクトを持っていない。もはや人々は特定地域に向けた利益誘導策にはあまり現実味を感じていない。また、地域レベルの政治のネットワークも、市町村合併や高齢化などでかなり弱体化している。
この点が、石川説が説明力を失った最大の原因ではないかと私は考えている。もはや、投票というのは有力者に頼まれて行くものもないし、目先にえさをぶら下げられて行くものでもない。一人ひとりの市民が、国全体にかかわる重要な政策について考え、自らにとって最も納得のいく候補者、政党に投票するようになった。この傾向は小泉政権の時代から進んできたが、今回は年金という身近な問題が浮かび上がったために、国民もより真剣に選挙にかかわっているように思える。
石川説がその歴史的役割を終えたことを、天上の石川さんはきっと喜んでいるに違いない。それは、日本の民主政治が一歩進化したことの現れだからである。ともかく、今夜の開票速報を注視したい。
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