七月二九日の参議院選挙では、自民党が予想外の大敗を喫した。注目された岡山選挙区も、民主党の新人、姫井由美子氏が片山虎之助氏を破るという大金星を上げる結果となった。大敗にもかかわらず、安倍晋三首相は退陣を拒否し、政権担当への意欲を示した。制度上、首相が続けたいといえば誰も止められない。首相の留任が、自民党、さらには日本の政党政治の再生につながるかどうか、より大きな責任が問われることとなるであろう。
自民党の大敗には、急性的原因と慢性的原因がある。閣僚の失言や政治と金をめぐる疑惑の噴出などが急性の原因である。これらは、内閣改造や党人事によってある程度対応することができる。世代交代を急がず、改憲志向のイデオロギーで内閣や与党を染めることを避け、見識と経験を持った政治家を登用することができれば、自民党のイメージも変わるであろう。
しかし、自民党の危機は慢性的な原因に由来している。イメージの転換だけではなく、安倍首相が就任以来目指してきた政策や路線の見直しがともなわなければ、自民党に対する逆風は収まることはないと私は考える。
二一世紀に入って、小泉純一郎前首相によって自民党は小さな政府、市場競争重視の路線に舵を切った。今回の参院選は、その路線によって痛めつけられた人々の反逆の機会となった。重要なことは、日本経済の構造が変わってしまい、成長の恩恵が各地、各層に均霑(きんてん)しなくなった点である。現在の繁栄は、弱者に対する再分配を削減したことによってもたらされたものであり、成長を実感に変えることはそもそも困難である。地方で長年自民党を支援してきた農民、自営業者などはその点を肌で感じたからこそ、自民党から離反したのである。民主党を率いる小沢一郎氏は、その点を巧みに衝いて、保守層の分裂を誘い、一人区での大勝を実現した。
秋以降、国会での与野党対決が厳しくなると思われる。自民党はもとより、大勝した民主党にとっても茨の道が待っている。民主党では、長い間野党のモデルについて、抵抗路線と対案路線という二つが、二者択一のように論じられてきた。参議院の第一党となった今、民主党はこの二つの路線を両立させなければ、政権交代への道を開けないであろう。
まず、抵抗の重要性を指摘しておきたい。民主党が参議院で法案をつぶせば国民生活に迷惑がかかるという揺さぶりもあるに違いない。しかし、民主党が国民の利益に反すると信じる法案に対しては、明確に反対を貫き、その理由を国民に分りやすく説明すればよい。幸か不幸か、衆議院は与党が三分の二の議席を持っているので、参議院が否決した法案を再議決し、成立させられる。民主党が法案成立の余裕を残した上で否決すれば、自民党と民主党の政策論争が衆議院と参議院の論争という形で具体化する。先の通常国会では強行採決が乱発され、まともな政策論議はなかったが、民主党が抵抗を貫くことで政策論争が活性化するであろう。
同時に、折角参議院の多数を握っているのだから、参議院から新たな立法を提案し、政権交代の予告編を国民に見せることも必要である。地方分権、温暖化防止のイニシアティブなど民主党が得意とする政策テーマについて腕を振るえば、政権担当能力への期待も高まるであろう。また、自民党や公明党も、政府提出法案にただ賛成するという形式的な審議だけではなく、野党から投げかけられたボールを打ち返すという新しいスタイルの法案審議に参加することによって、本当の政策能力を問われることになるであろう。
どんなに遅くても、来年のサミット直後までには衆議院の解散、総選挙が行われるであろう。秋以降の国会で、どの政党が次の政権を担うにふさわしいか、活発な論争が行われることを期待したい。
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