臨時国会では、テロ対策新法の審議が難航したうえに、防衛省をめぐる不祥事が加わり、混迷の様相が深まっている。国会審議の難航は夏の参院選の結果が明らかになった時点から予想されたことではある。それにしても、いわゆるねじれ国会の運営をめぐって、与野党が手探りを続けている印象である。
参議院で与野党逆転し、ねじれ状態になったこと自体は、日本の議会政治にとってきわめて有意義なことだと私は考えている。臨時国会で法案が成立していないことをもって、国会が機能していないという批判の声もある。しかし、野党優位の参議院を作りだしたのは他でもない民意であり、簡単には法案が通らない状況は民意の帰結である。この臨時国会には補正予算も出ていないので、短時間のうちに決着をつけるべき喫緊の課題は、テロ対策以外にはない。そのテロ対策にしても、旧特措法の失効によりインド洋での海上自衛隊による給油活動が停止したが、日本の外交に実害が生じているわけでもない。
また、参議院の逆転により、安全保障や薬事行政に関する国会によるチェックや情報開示が飛躍的に進んだことは、「ねじれ」の効用である。国会は憲法で「国権の最高機関」と規定されながら、今までは政府提出法案を大過なく成立させることを最大の役割としてきた。こと行政に対するチェックとなると、官僚をかばう与党側の消極姿勢によって、国会に本来与えられた権能を十分発揮できなかった。まさに、与野党逆転によって国会はようやく目覚め、最高機関の片鱗を見せ始めた。
しかし、国会の現状がこれでよいわけではない。この臨時国会では、与野党がそれぞれの基本政策を示すことでわかりやすい形で対決し、次の総選挙に向けて国民の判断材料を示すところにこそ、最大の課題があったはずである。その観点から評価すると、与野党ともに及第点は与えられない。
まず、民主党の小沢一郎代表が大連立に踏み込もうとしたことは、政党政治の論理を自ら否定することであった。この失敗に懲りたのか、騒ぎが収まったあとの民主党は、逆に政府与党との全面的な対決の路線を取っているようである。野党の仕事は政府との対決であり、妥協を排するのも一つの見識である。しかし、行政の腐敗を正したり、政策の失敗を追及したりするために対決するという原点を見失ってはならない。
目下の国会の最大の焦点は、額賀福志郎財務相と守屋武昌前防衛事務次官や軍需商社の癒着の有無である。話は額賀氏が嘘をついているかどうかに集中し、参議院財政金融委員会では野党単独採決により額賀氏の証人喚問を議決するに至った。国会の証人喚問は伝家の宝刀であり、その運用には慎重さも求められる。国会の多数派が政敵を証人喚問しつるし上げるようなことがあれば、それはまさに多数の専制である。守屋事件を契機に明らかになった防衛利権の実態解明と発注手続きの改善は、国会の課題である。そのために国政調査権を発動することは制度の趣旨にもかなう。しかし、額賀氏が嘘をついたかどうかは問題の本筋からはずれている。
政治の世界だから、政敵を叩いて得点を稼ぐという動機はつきものである。しかし、民主党の政治的能力に対する信頼を高めるという大きな目的に照らして、参議院での戦い方を熟考する必要がある。参議院で多数を握ったことにより、民主党は政治的判断力を問われることとなった。ここで政治的未熟さをさらけ出せば、政権交代は遠のく。
国会がまずなすべきことは、「テロとの戦い」とは何か、防衛省の高額な発注をいかにして透明化するかといった重要問題に関して、実態を明らかにした上で、徹底的に議論することである。政府与党との相対的な力関係のみにとらわれていては、判断を誤ることになる。議会政治の原点に戻り、国会の権能を的確に行使することこそ、政権交代への王道である。
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