昨年の参院選の直後には、政権交代や政党再編も近いというある種の熱気が存在した。しかし、その後のねじれ国会における政治の膠着状態が長引くにつれて、政党政治への期待感も低下しているようである。その最大の理由は、国民がそれぞれの政党に期待していることを、当の政治家自身が理解していないという食い違いにあるように思える。今後の政党政治の方向性を整理するために、国民が政党政治に何を望んでいるかを把握することが不可欠と考え、私が代表を務める研究プロジェクトでは、昨年十一月下旬に全国約千五百サンプルで世論調査を行った。
この調査から得られた最大の発見は、政党支持と政策的選好がかなり明確に結びついているという事実である。まず、二大政党化という全体の傾向を反映して、全体の政党支持は、自民党23.7%、民主党22.3%、支持政党なし42.2%と、自民党と民主党が拮抗している。両党の支持者は、日本社会の現状認識や望ましい政策の方向に関してかなり異なった見解を持っている。
小泉・安倍政権下で進んだ改革の結果日本の世の中はどうなったかという質問に対して二つ答えを選ぶという設問について、全体では、格差拡大65%、教育・福祉等の公共サービスの質の低下42%、金儲け主義の蔓延31%と、否定的な答えが上位を占めた。その中で、自民党支持者に限ってみれば、政治家・官僚の特権の是正34%、経済活力の回復14%と、それぞれ全体の答えよりも10ポイント、6ポイント高い。つまり、自民党支持者は相対的に改革の成果をより好意的に捉えている。
また、これからの生活のイメージについての質問では、全体では、安心、おおむね安心を合わせた楽観派が28%、やや不安、不安を合わせた悲観派が71%であった。自民支持層では楽観派が39%、悲観派が60%であったのに対して、民主支持層では楽観派が21%、悲観派が79%であった。
さらに、これからの日本社会のあるべきモデルについて尋ねたところ、全体では、北欧型福祉社会58%、日本的終身雇用社会32%、アメリカ型競争社会7%であった。自民支持層では北欧型に対する支持が50%と低く、民主支持層では逆に61%と高かった。これに関連して、従来の日本的社会システムのどこを改めるべきかという問いに対して、競争原理を導入し平等の行き過ぎを改めるという答えが、自民支持層で17%と民主支持層よりも10ポイント高く、公的社会保障を強化するという答えが民主支持層で38%と自民支持層よりも9ポイント高かった。
この結果からは次のような観察を引き出すことができる。自民党は、相対的に安定した生活を送る裕福な層に強く支持されている。競争原理への支持の大きさ、小泉改革の肯定的評価の多さから、小泉時代の政策によって新たな受益者が形成され、これが自民党の支持基盤に組み込まれている。他方、小泉時代の景気回復は社会全体には波及せず、むしろ労働法制、社会保障、地方財政に関する改革では従来の安心、安定を奪われる人々を作り出した。これらの人々が民主党の支持に流れていることが窺える。昨年の参院選で「生活第一」というスローガンが大きな支持を集めたのも、こうした人々の気持ちをつかんだからである。
自民党と民主党の二大政党の対決が続く一方で、両者の違いが見えにくいという不満も言われ続けてきた。両党が政治の表舞台でかみ合った対決構図を描けない一方で、国民の方は既に政策本位の二大政党制を支える体制を形作っているというのが今回の調査結果である。それぞれの党の政治家の考えは多様であろうが、国民は、社会の現状認識や自らの生活実感に照らして、政党に明確な期待を託そうとしているのである。それぞれの政党が支持者の思いに忠実に政策を練れば、二大政党制は本格化するであろう。さもなくば、個々の政治家が自らの思いに忠実に、政党を組み替える再編を起こすしかないであろう。
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