海上自衛隊のイージス艦が漁船と衝突した事件は、安全保障とは何かを改めて考えさせている。衝突の12分前に漁船の接近に気づきながら漫然と自動操舵を続けたという説明を聞くと、自衛隊は所詮戦争ごっこをしているだけではないかと思えてならない。
軍隊たるもの、たとえ演習中であっても実戦同様の緊張感を持って事に臨んでいるはずである。衝突した漁船が自爆テロの船だったらどうするかという声が閣僚から上がったのも、当然の反応である。要するに、実戦というものはあり得ないという自明の前提の上に、イージス艦は行動していたのである。一部の軍事評論家が言うように、ハワイでの訓練を終えての帰途、横須賀を目前にしていたため船路を急いでいたとするならば、言語道断である。実戦の緊張感が全くないのだから、自衛隊こそが平和ボケしているとしか思えない。
イージス艦は、ミサイル防衛システムを担うために最新鋭の情報探知システムを備えている。これが漁船との衝突を回避し得なかったのだから、イージス艦が支えているミサイル防衛システム自体の信憑性をも疑う必要がある。軍事評論家の田岡俊次氏が指摘していたが、先日のハワイ沖におけるミサイル迎撃訓練は、まったくのまやかしであった。これからミサイルを発射することが分かった状態で迎撃するのだから、打球が飛んでくる場所があらかじめ分かった上で守備をするようなものである。ミサイル防衛システムはまだ確立されたわけではない。費用も当初の予算を超えて膨らむであろう。国際評論家の田中宇氏は、ミサイル防衛システムについて、アメリカが本国では用済みになったパトリオットミサイルを日本に売り込むための壮大な仕掛けだと述べている。この種の話は裏を取ることは難しいが、私には田中氏の解説が正鵠を射ているように思える。
通常国会が始まる前は、守屋武昌前防衛事務次官の汚職から防衛利権の実態にどこまで迫れるかが大きな注目を集めていた。しかし、最近この問題に関する報道はぷっつり聞こえなくなった。問題の本質は、守屋氏の個人的なやりすぎではない。日米両国の死の商人が安全保障をネタに金儲けをし、政治家や官僚と結びついていることこそ、今後解明すべき最大のテーマである。
政局は今中だるみ状態にある。野党は政府を責めあぐねている印象である。道路利権の追及も結構であるが、予算の無駄遣いという点では防衛利権の方が悪質である。道路ならば工事費が地域の業者に渡り、少しは波及効果もある。軍需産業は民生をまったく潤わさない。しかも、防衛機密という隠れ蓑があり、利権の実態を暴くことには大きな困難がつきまとう。
せっかく参議院で野党が多数を持っているのだから、国政調査権を発動して、ミサイル防衛システムの策定過程、各種装備の積算根拠などを徹底的に糾明してほしい。資料の提出でも証人喚問でも、委員会が議決すれば可能である。内閣がこれに非協力的な態度を取るならば、その時こそ内閣や石破茂防衛大臣に対して問責決議を上げればよい。民主党がこの問題でもたもたしていたら、同党にも防衛利権をせしめている政治家がいるからだという勘ぐりを招くだけである。
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