揮発油税の暫定税率をめぐる与野党対決はついに年度を越えることとなった。全国紙やテレビでは、年度内に合意に到達できなかったことを非難する論説が展開されている。しかし、日本の政党政治にとってここで何としても妥協することが必要だったのかどうか、私は疑問に思っている。
国会における各党の話し合いによってよりよい政策を発見するという理想論を否定するつもりはない。実際、この通常国会の前半では、そのようなチャンスもあったのだ。「ガソリン値下げ隊」には感心しなかったが、衆議院予算委員会の道路問題に関する審議は見応えのあるものであった。民主党は今までにない鋭い質問を繰り出し、道路政策における官僚支配の弊害を明らかにすることに成功した。国土交通大臣が答弁に窮することもあった。こうした審議の活性化は、参議院の与野党逆転を背景とした野党側の頑張りの成果である。
もし政府与党が話し合いによる合意路線を取るなら、衆議院段階からそれを明確にすべきであった。そして、野党のまっとうな批判は謙虚に受け容れ、むしろ道路政策における官僚支配の打破について自らイニシアティブを取るべきであった。政府が先に大胆な譲歩すれば、逆に野党は合意の枠に絡め取られていたであろう。官僚が作成した政府提出原案こそベストという従来の常識に則って衆議院を通過させたうえで、年度末の土壇場になって話し合いを求めるというのは、国会論議を軽視した態度といわなければならない。官僚支配に疑問を抱かない政府与党が、国会での話し合いを求めても説得力はない。
一九九〇年代の政治改革以来、日本政治は政権交代可能な二大政党制を目指してきた。そこでは、与野党が秩序ある喧嘩をすることが必要である。即ち、何が政策争点であり、それぞれの政党がどのような理念に基づいて対決するかを国民の前にはっきり示すことこそ、有意義な政党政治にとって不可欠の前提である。その意味では、期限に迫られて曖昧な合意をするのではなく、お互いの主張をぶつけ合って決裂するという今回の展開も、日本の民主政治の深化にとっては必要な一ステップになり得る。
また、政治の世界の本質は権力闘争である。政権が高い支持を得ていれば、野党も妥協を迫られる。しかし、今の福田政権のようにジリ貧傾向であれば、野党が政権打倒のチャンスと見て、話し合いを拒否することも当然である。
私は民主党の方針をすべて支持しているわけではない。むしろ心配している。道路問題を糸口に政局を混乱させるという戦術が成功すれば、民主党は最大の試練に自らをさらすことになる。官僚支配や族議員政治の弊害を指弾するのはもうよい。民主党が政権を取った暁には、どのようにしてこれを打開するのか。具体的な構想と強い決意のないまま政局の混乱だけが起これば、民主党にも致命傷となる。次の総選挙に向けて、道路問題を契機に、より本格的な政策対立を見せてほしい。
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