洞爺湖サミットが無事終わっても、内閣支持率にはまったく影響ないことが明らかになった。自民党と民主党の支持率も、拮抗した状態が続いている。与野党の支持率が1年もの間並んだままだという事態は、戦後の政党政治の歴史で初めての経験である。ともかく一度は政権交代を起こしてみようというのが民意であろう。
その意味では、民主党は政権獲得に向けて、かつてない好機に遭遇している。この好機を生かすために不可欠なのが、小沢一郎代表の改造である。世論調査では、次の政権は民主党中心が望ましいという意見が多数であるが、首相には福田康夫自民党総裁と小沢代表のどちらがふさわしいかという問いに対しては、小沢を推す声は少数となっている(『朝日新聞』、7月15日朝刊)。
9月の代表選挙では小沢再選がほぼ確実である。民主党には小沢以外に首相候補はいない。しかし、その小沢に対する国民の期待が今ひとつ盛り上がらない。民主党にとって、この隘路を突破できるかどうかが、政権獲得の鍵である。
新聞各紙の社説では、代表選挙に対抗馬が出て、きちんとした選挙をすべきだという建前論が繰り返されている。しかし、政権を賭けた総選挙を1年以内に控えた今、代表の任期切れという形式的な理由だけで選挙を行う意味があるのか、私には疑問である。小沢代表のもとで参議院選挙に圧勝し、政権交代を求めて走ってきた民主党である。最終ゴールを目前にして、党則を優先させて、自己目的のような代表選挙をすることに、どれほどの意味があるのかと疑問に思う。
民主党内に、小沢よりも首相候補にふさわしいと自他共に認める政治家がいるならば、代表選挙を行う意味はある。しかし、今のところ、無投票を避けるという消極的な理由しか聞こえてこない。反小沢色の強い候補が立って争えば、メディアが論争を対立、亀裂にまで誇張することが懸念される。
無理に代表選挙を行う必要はないが、小沢の再選を、政権交代に向けて狼煙を上げる機会にするために、格別の工夫が必要である。小沢に対する国民的な期待がいまひとつ盛り上がらないのも、本人が政権奪取に向けて明確な意欲を示さないことと関連していると私は考えている。野党第1党の党首が選挙に勝てば、次の首相になるというのが政党政治の常道である。しかし、小沢については、政府与党の攻撃はするし、法案や人事について激しい抵抗はするが、自分が首相になって日本をこのように造り変えるという積極的な意欲を示さないというイメージが付きまとう。実際、昨年の参議院選挙以降も、首相になりたいという、野党第1党の党首として最も肝心なことは明言を避けてきた。そのことを国民も見ているのであろう。
小沢再任の党大会をシャンシャン総会に終わらせてはならない。小沢のリーダーシップの確立と、来るべき民主党政権の政策構想を共有するための場にすべきである。8月にはアメリカで大統領候補指名の党大会が開かれるが、そこでは数日間にわたって、様々な立場の支持者や政治家が党に対する要求や批判を述べ、将来実現すべき政権のビジョンについて語る。そして、最後に候補者が指名受諾演説を行い、本選挙に向けたムードを盛り上げる。日本の民主党大会も十分時間をとり、農民、労働者、経営者、自治体首長など様々な立場の人が、民主党に対する辛口の期待を述べ、最後に小沢がそれに応え、政権構想を明確に語るというような仕掛けができれば、民主党の開かれた体制は十分アピールできる。
小沢の課題は、政策の現実化と政権運営の体制準備の2つである。
政策の現実化ということについて、前原誠司前代表や一部のメディアが言うような細かい財源を明確にすることは必要ない。マニフェストという言葉は日本でも定着したが、そこには日本的な誤解がある。日本にのけるマニフェストの提唱者は、財源と実現時期の明記を強調するが、政治にとってそれはむしろ二の次である。マニフェストはパソコンの仕様ではない。その根底には思想が不可欠である。思想が明確になっていれば、負担増を求める際にも順番がおのずと決まる。
たとえば農家の戸別保障を実現するためには、従来の土木中心の農業予算を大幅に組み替えればよい。無駄を省くとはそういうことである。そうした予算の組み替えをしてまだ財源が足りなければ、負担増を議論するということは今から率直に言っておいた方がよい。その場合、累進所得税、法人税、消費税などの中でどのような順番で負担増を検討するかを語るべきである。
小沢は地方分権について、二層制の三百市構想の旗を降ろしていない。しかし、これは十年がかりの制度改革であり、小沢政権の下でこれを実現することは不可能である。その種の将来に対する問題提起と、雇用、医療、介護、地方財政を中心とした喫緊の課題についての取り組みを明確に区別しなければならない。そして、国民生活を救うために小沢政権が直ちに何を実行するかを提示する必要がある。
もう一つの政権運営の体制準備についても不安が残る。小沢はイギリスモデルに倣い、政権に就けば与党議員を大挙して行政府に送り込むと公言している。その方向は間違っていないが、今の民主党にそれを支える人材が実際にいるのだろうか。各省の官僚組織を掌握し、政策転換を進めることは容易ではない。「次の内閣」は言うまでもなく、副大臣や政務官の候補者を含めたチームを作り、各分野の政策形成をどう進めるか、今からシミュレーションしておく必要がある。
小沢代表はとかくコミュニケーション不足を指摘されてきた。政権掌握を目指して積極的に人材を登用し、民主党政治家のエネルギーを引き出し、挙党体制を作ってほしい。
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