各紙の世論調査で、内閣支持率は一〇%程度にまで落ち込み、不支持率は八〇%に達しようとしている。民主政治において世論調査の動向に従うことが常に善であるわけではない。それにしても、外交で点を稼げば支持率は好転するだろうと楽観的に考え、内政に関する統治能力を失ったまま日本を代表して、外国首脳と物事を議論するという麻生首相の姿勢を見ると、なぜ世論があなたに不信任を突きつけているか、理由を考えろと言いたくなる。
私は二月前半、五年ぶりにアメリカを訪れて、オバマ政権の滑り出しを見ることができた。その時の最大の争点は、景気刺激策に関する法案審議であった。日本人にとって情けないことに、賛成側も反対側も、バブル崩壊以後の日本の政策を引き合いに出して、自分たちの主張の根拠としていた。オバマ大統領は、日本の経済対策が、あまりに小さく、遅きに失したことこそ、長期停滞をもたらしたと主張し、アメリカはその轍を踏まないよう、大規模な景気刺激を、迅速に実行すると訴えた。これに対して、野党である共和党の議員は、バブル崩壊後に日本政府が展開した公共事業はほとんど効果がなかったとして、オバマ政権の大規模な財政出動も効果は期待できないと反論していた。どちらにしても、日本は悪いお手本である。こうした議論を見た直後だけに、麻生首相がオバマ大統領に招かれた最初の外国首脳だと、得意そうにホワイトハウスに入る様子が、ことのほか哀しかった。
現在の経済状況は、異常である。私は中学生の頃、第一次石油危機を経験し、経済の暗転を子どもながらに実感した。しかし、当時は高度成長の余韻が残っており、企業は従業員を抱えながら危機を乗り越えた。今は、余剰人員とみなされた非正規労働者は、容赦なく路上に放逐される。企業は従業員を解雇できるが、国や自治体は住民を放逐することはできない。政府は生活保護などのコストをかけて、人々の生活を最後に支えなければならない。この際、多少の財政赤字は増えても、まず国民の生活を支え、人々が生きる希望を見出せるような社会を取り戻さなければならない。
経済の異常さを的確に認識できず、有効な対策を打てないところに、日本政治の異常さがある。もちろん、政府には言い訳もあるだろう。野党が参議院を支配している以上、迅速な政策決定はできないのも事実である。しかし、問題は政府の正統性という根本的な次元にある。アメリカの場合、大統領選挙によって国民がオバマを選んだという正統性があるからこそ、政府は日本円で数十兆円に上る経済刺激や金融対策を打ち出せるのである。
日本の場合、残念ながら麻生政権には正統性がない。酔っぱらって醜態をさらし、国の名誉を傷つけた財務大臣を即座に首にできないような首相には、国民は何も期待していない。麻生氏はただひたすら首相の座にしがみついているだけだということが国民に見えるからこそ、支持率は低下する。実効性のある経済政策を打ち出すためには、まず正統性のある政権を打ち立てることが不可欠である。麻生首相が国民のためにできることは、ただ一つ、速やかな解散総選挙の実施である。
自民党はどうなってしまったのだろう。麻生首相の下では次の選挙が戦えないと叫ぶ政治家は何人かいる。しかし、このままでは国民に申し訳ないので麻生首相に辞めてもらいたいと言う政治家は一人もいない。自民党が保身に走れば走るほど、国民は自民党を見放し、政権交代の可能性はますます大きくなる。
幕末と同じく、一つの体制が崩壊する時は、こうしたものかも知れない。アメリカでは、経済危機に当たって政治のリーダーシップが回復し、日本では経済危機ともに政治も沈没していく。今はその落差に嘆息するばかりである。
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