麻生政権は、小泉政権以来の構造改革路線を転換したようである。経済対策のための15兆円の補正予算を組み、これまで無視されてきた失業者、貧困層、働く女性に対してもある程度の対策を打ち出すようである。また、4月13日には安心社会実現会議を立ち上げて、構造改革路線に代わる新たな政策体系の議論を始めた。
そのこと自体は、私も様々な機会に主張してきたことなので、けしからんと批判するわけにはいかない。しかし、政策転換の仕方は、政策の効果に密接に関わってくる。経済政策を取り仕切る与謝野馨財務相や自民党政調会の幹部の政治家の志には敬意を払いつつも、あえて今回の政策転換に対して批判を述べておきたい。
安心社会がなぜ必要なのか。それは、21世紀に入って構造改革という名の下に、政策の基盤を破壊し、人間にとって暮らしにくい危険な社会を作ったからである。個人の病気であれ社会の病理であれ、治療とはまず病理の原因を探ることから始まるべきである。現代日本の病理の原因は単純明白である。社会保障と地方財政に対する支出を過度に削減したこと、セーフティネット無しに労働の規制緩和を推進したことが、大きな原因である。
安心社会実現会議のメンバーを見ると、今までこの種の審議会と無縁だった人物も含まれてはいるが、相変わらず、吉川洋、伊藤元重という二人の経済学者が入り、読売新聞の渡邉恒雄、フジテレビの日枝久といったメディアの大物が入っている。どのツラ下げてと言いたくなる。吉川、伊藤の両氏は、小泉政権以来の歳出削減や規制緩和の旗振り役立ったのではないか。読売新聞やフジテレビは、構造改革に対して、その悪影響を警告するような論陣を張ったことがあるのか。これこそマッチポンプである。
政策転換を行うためには、失敗した政策に対する十分な総括がまず必要である。また、失敗した政策を推進、決定した当事者に責任を取らせることが必要である。日本のように社会を破壊した張本人たちがのうのうと政策決定の場に居座っていれば、間違いの原因は究明されず、対策も中途半端に終わる。
アメリカでは、大統領選挙の結果、政権交代によって政策路線の転換が図られている。(オバマ政権による政策転換の意味を認めない本誌の論調は、化石化した旧左翼の反米意識の表れとしか見えないが、その点については機会を改めて論じたい。)日本でも、本当の意味での政策転換は、政権交代によって実現するのである。
最後に、民主党の責任にも触れなければならない。小沢一郎代表の政治資金問題の摘発以来、民主党からは一切前向きな政策論議が聞こえてこない。政府与党が、経済対策の中で民主党の主張をパクっているという嘆きも聞こえてくる。しかし、そんな泣き言を言うようでは、政権は取れない。政府与党の経済政策のいい加減さを追及し、より根本的な社会保障と雇用の再建策を打ち出すことこそ、民主党の仕事である。民主党の政治家がこぞって小沢代表の下で政権交代を目指すと腹をくくるなら、それでもよい。ならば、小沢代表が政権交代によって何を実現するのか、明確に語るべきである。
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