私は小沢一郎代表と懇意にしており、「生活第一」路線をアドバイスしてきた自負がある。しかし今回の秘書逮捕のダメージは大きく、小沢氏が代表のままでは民主党は総選挙を勝ち抜けないのではないか。
一方の政府・与党側は、麻生太郎首相直轄の「安心社会実現会議」を設置。連合会長や社会福祉政策を専門とする学者を引っ張り込むなど、路線転換の姿勢を見せ始めている。自民党が構造改革路線の過ちを反省し、その是正策をまじめに考えるのであれば望ましいことだが、どこまで本気なのか疑わしい。
両党は目指すべき社会像に関して体系的な議論を闘わせるべきだ。その際、民主党は、スウェーデン並みは無理としても、せめて英国並みの福祉国家の建設を目指し、年金や医療、介護、子育て、若年層の就労支援をひとまとまりにした政策を打ち出してもらいたい。
「生活第一路線」は堅持を
国の将来像を語る際に、財源負担の問題は避けて通れない。最初から消費税率を引き上げるといったら国民の拒否反応は大きいが、議論の順番を工夫することで乗り越えてほしい。まず、国民負担率(国民所得に占める社会保障費・税負担の割合)を45%〜50%まで段階的に引き上げていき、その中で医療や介護、保育の財源を確保するという青写真を示すべき。負担増のプロセスとしては、最初は所得税の累進制強化や相続税の課税強化から手を着け、消費税増税はその後でいい。また、総賃金を課税対象とした社会保障税の創設も有効だ。雇用形態と無関係に企業に課税することで、非正規労働活用のインセンティブは低下する。
麻生首相の次の首相候補として自民党内で名前が挙がっている政治家は、新自由主義的な考えの人物が多い。だからこそ、民主党は対抗軸である「生活第一路線」を堅持してほしいし、政権獲得にはそれ以外に道はない。
経済的事情で進学を断念する若者をゼロにするとか、介護疲れによる殺傷事件をゼロにするといったわかりやすい目標を掲げ、教育や介護に思い切っておカネを投下したらどうか―。昨年、私は小沢氏にこんな提案をした。社会保障の再建に予算を投下する必要性を、小沢氏はよく理解している。ただ、残念ながら公約として打ち出してこなかった。
小沢氏は田中角栄元首相の愛弟子でもあるのだから、日本列島改造論の現代版のような大きなビジョンを出せばよい。たとえば、小学校を建てるイメージで、保育や介護などの公共サービスを全国津々浦々に広げますというアピールをしていれば国民も賛同するはずだ。
今の民主党では、政策に関するコントロールタワーが不在だ。散発的な政策論議ではなく、全体の体系を作るべきだ。
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